弘法大師の縁日である21日に、東寺(南区九条町、教王護国寺の通称)では、骨董品などが豊富に揃う「弘法さん」という市が毎月催される。一年の最後に行なわれる「終い弘法」となれば、その賑わいは一際である。この弘法さんの市がたつ日に買うことのできる、東寺みやげの面白いどら焼きがある。

 どら焼きといえば、打楽器の銅鑼に似た丸い形をした焼き菓子を誰もが思い浮かべるだろう。しかし、弘法さんのどら焼きは細長い円筒形をしており、菓子全体が竹皮に包まれている。食べるときは、羊羹のように竹皮ごと端の方から包丁で輪切りにするのである。中身はといえば、小麦粉、鶏卵、砂糖の種汁とおぼしき秘伝の薄皮に、丸く棒状になった漉し餡をのせ、ロールケーキのようにくるくると巻いたものであり、薄皮が不思議なほどもちもちとした食感になっている。このねっちりした薄皮が漉し餡とほぼ一体の状態になっており、さらに竹皮の香りも相まって、よく見知ったどら焼きとは、まったく違った独創的な菓子に仕上げられている。

 弘法さんのどら焼きがつくられたのは江戸時代末期のことである。東寺のお坊さんから副食となる菓子の依頼を受けた、笹屋伊織(ささやいおり)の五代目当主伊兵衛は、お寺でもつくることができるようにと、金属製の銅鑼を鉄板代わりにすることを思いつき、熱した銅鑼で焼いた薄皮に漉し餡を巻き込んだ焼き菓子を編み出したという。このお菓子が巷で評判を呼び、弘法大師の命日である21日だけは、東寺参拝の土産として一般の人に販売することになったそうだ。現在は、十代目当主がその変わらない味を受け継ぎ、弘法さんの市がある21日を含む、毎月3日間だけ販売している。


写真奥のように棒状で販売されている。手前のように輪切りにして食べる。見た目以上に、ねっとりとした食感がうまさの秘訣である。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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