最後の映画俳優。本名小田剛一。悪性リンパ腫で11月10日、83歳の生涯を閉じた。福岡県中間(なかま)市に生まれる。父親は炭坑夫のとりまとめ役、母親は教師という裕福な家庭で育ったが、周囲には気性の激しい連中が多く、しょっちゅう死体を見たとインタビューで話している。

 母親っ子だったが子育てには厳しい母親で、魚が嫌いだというと何日も頭の付いた魚が出てきて閉口したと自著に書いている。

 明治大学商学部を卒業するも就職先がなく、大学時代の知人の伝手で芸能プロダクションのマネージャーになるために面接を受けているところを、居合わせた東映東京撮影所所長のマキノ光雄にスカウトされ、東映ニューフェイス第2期生として東映へ入社する。だが、あまりの下手さに「ほかの人の邪魔になるから見学してろ」と言われたと本人が話している。

 だが、当時の東映はシェア・ナンバーワンを目指して年間の本数を増やしていたこともあってだろう、採用から1か月半で『電光空手打ち』の主役に指名され、その際、高倉健の芸名が付けられた。その後、当時の大看板、片岡千恵蔵や中村錦之介、美空ひばりと共演する、もパッとしなかったが、63年に鶴田浩二と共演した任侠映画の先がけ『人生劇場 飛車角』で演じた宮川役で強烈な印象を残し、翌年から始まる「日本侠客伝シリーズ」、65年の「網走番外地シリーズ」「昭和残侠伝シリーズ」でスターへの階(きざはし)を一気に駆け上っていく。

 60年代後半の任侠映画人気は凄まじかった。どこの映画館も人で溢れ、健さんが斬り込んでいく場面では客席から「異議なし!」の大合唱が起こった。オールナイトを見て出てくる人間はみな、高倉健になりきって館を後にした。映画館に足を運んだ高倉自身がこうした光景を見て驚いたと話している。

 59年に人気歌手・江利チエミと結婚するが71年に離婚。その後、年に10本も量産される任侠映画の安易なストーリーに飽き足らず、会社側に「ほかの役をやらせてくれ」と要求するが受け入れられず、76年に東映を離れて独立する。

 その頃が金銭的にも一番苦しく、マンションやベンツを売って生活費にしていたという。

 その当時のことを『週刊現代』(12/6号)で芥川賞作家の丸山健二がこのように話している。任侠路線から実録路線の時代が来て、高倉が仕事に困っていた時、キャバレー王と言われていた人から声をかけられ、うちのキャバレーで「網走番外地」を1曲歌ってくれたら1000万円以上出すと口説かれた。金額に釣られてステージに上がったところ、店内は酔っ払いだらけで歌どころではなく、二度とやるもんかと痛切に思ったと言っていたそうだ。

 だが、独立第1作『君よ憤怒の河を渉(わた)れ』が大ヒットし、3年かけた大作『八甲田山』や山田洋次監督の『幸せの黄色いハンカチ』で日本映画界を代表する俳優となる。

 自らを「自分は不器用ですから」と評し、礼儀正しく曲がったことの嫌いな昭和の男を演じ続けたが、私生活は決して詳(つまび)らかにしなかった

 彼の死が明らかになったのは8日後の11月18日。新聞は号外を出しテレビのニュースはトップで扱い、追悼番組が組まれ、各界の人間が彼の死を惜しんだ。

 『週刊ポスト』(12/5号)でビートたけしはこう語っている。

 「30年近く前の映画『夜叉』(1985年公開・降旗(ふるはた)康男監督)の撮影から、付き合いが始まったんじゃないかな。
健さんは、雪がしんしんと降る中、オイラのロケ地入りを駅で花束持って待っててくれたんだ。(中略)
 団塊世代の男ならみんなそうだと思うけど、『高倉健』ってのは、ガキの頃からオイラにとっちゃ憧れだった。長嶋茂雄か、高倉健か。男の中の男っていうのはああいうもんだと子供ながらに思ってた。で、実際に会ってみると、想像以上の人だったんだ」

 『鉄道員』『ホタル』で助監督を務めた佐々部清も健さんの人柄を語る。

 「『鉄道員』の完成をお祝いした時でしょうか。撮影所の中で、降旗さん、高倉さんを真ん中に記念写真を撮ったんです。倉庫整理の人、美術、カメラ整備など東映を下支えして定年を迎えられたり、退職した人たちを含めて100人ほどが集合しました。何十年、ともに映画をつくってきた人たちです。みな、おじいちゃんです。高倉さんは全員の名前を憶えていました。
昔から、『そこの照明』とか絶対いわない人でしたが、その時もみなさんの名前を呼んで、おじいちゃんたち泣いておられました」

 「高倉さんはおっしゃった。『あと何年、自分は役者でいられるか。もうあと何本出られるか分からない。だから何を撮ったかではなく、なんのために撮ったかが大事なんです』と」

 ここからは恐縮だが、私と高倉健とのささやかな思い出について書かせていただく。私が編集者になってどうしても会いたい人が3人いた。吉永小百合と長嶋茂雄、そして高倉健である。

 小百合(こんな言い方をしてゴメン!)とは残念ながら何度かすれ違っただけだが、長嶋さんとは食事をしたり対談に出てもらったことがある。健さんとは2度会うことができた。

 はじめは公開される映画についてのインタビューだったが、若造の私の拙い質問にも嫌な顔をせず答えてくれた。憧れの人に会えた緊張感で何を話したかは覚えていないが、背筋がピンと張った姿勢のよさと礼儀正しさは強く印象に残っている。

 2度目は『八甲田山』の森谷司郎監督と銀座のバーで飲み友だちになったことから、彼に紹介を受けたと記憶している。青山にあった喫茶店で会った。

 珈琲がうまく健さんがときどき立ち寄る店としても知られていた。表通りの見える席で二人きり、1時間ぐらい珈琲を飲みながら話を聞いた。

 覚えていることは、珈琲が好きで日に40、50杯飲むがインスタント珈琲でも何でもかまわない。酒は飲まないが京都・嵐山に酒を霧のように吹きかけて出すそば屋があるが、そこだけは気に入っていて、京都へ行くたびに食べに行く。しかし「食べ過ぎると酔っ払っちゃってね」。印象に残った言葉は、「俳優をやるのはカネのためで男子一生の仕事とは考えていなかった」。健さんが40代のときである。

 健さんの映画は遺作になった『あなたへ』も含めてほとんど見ているが、晩年の作品では『ホタル』がよかったぐらいで、ほかは感心しない。私のベスト3は一連の「昭和残侠伝シリーズ」、『居酒屋兆治』、『八甲田山』。「残侠伝」は今でも気が滅入ったとき気合いを入れるために見る。

 私が『週刊現代』編集長になった当初、プレッシャーのためかうつ状態になったことがあった。会社が近くなると冷や汗が吹き出てきて動悸が速くなってしまう。

 そんな自分の弱さを鼓舞するために「残侠伝」を見てから出かけたことが何度もあった。ヤクザ、右翼、中核派などとトラブルになって話し合いに行くときには、『唐獅子牡丹』のなかの「なんで今更 悔いがあろ ろくでなしよと 夜風が笑う」という歌詞を口ずさんで“敵地”へ斬り込んだものだった。

 健さんのような容姿も度胸もなかったが、私にとって高倉健は、社畜となり果て、会社のカネで酒を飲むことを当然のことと“堕落”していく自分の最後のつっかい棒だった。

 それがあったため小過はいっぱいあったが、何とかこの歳まで生きてこられたと思っている。その健さんがいなくなった今、正直、途方に暮れている。

 立川談志も高倉健もいない人生ほどつまらないものはない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は前代未聞といわれる大義のない解散をした安倍自民党が目論見通り総選挙を制するのか、はたまた大きく議席を減らして退陣に追い込まれるのか、3本の週刊誌報道で占ってみた。今週は、順位はつけない。

「血税700億投入でなぜ今?『大義なき解散』全内幕」(『週刊文春』11/27号)
「295選挙区&比例区完全シミュレーション 安倍自民『過半数割れ』驚愕データ」(『週刊ポスト』12/5号)
「自民『50議席減』一気に倒閣へ」(『週刊現代』12/6号) 

 これほど解散する大義のない税金無駄遣い選挙は前代未聞である。各誌選挙予測をやっているが、自民党が現有議席を減らすことは間違いないが、それでも単独過半数は確保するという見方が多いようである。
 飯島勲(いさお)内閣参与は『文春』の連載で「電撃解散で自民は議席を上積みする」とまで言っている。その根拠はこうだ。

 「四十三年間の永田町暮らしの経験から見て、間違いなく自民党は現有勢力から上積みをするよ。(中略)
民主党がいくら慌てて候補者をかき集めて擁立しても、知名度のない新人が当選するわけないからさ。またもや議席減でしょ。
 だいたいね、解散して公示、投票と流れていくこんな短期間で選挙結果がどうこうなんて、ほとんど何の関係もないんだよ。どんなに遅くても公示日の時点で九割の議席は当落が固まっている。その後の十日間余りは残り一割の戦いでしかないのよ」

 『ポスト』の連載で長谷川幸洋(ゆきひろ)氏もこう書いている。

 「民主党はもともと増税に賛成だ。舞台裏では財務省があの手この手で増税根回しに動いていた。そこで安倍首相が先送りを言い出せば、政権を揺るがす大政局になったのは間違いない。
 大手マスコミはほとんど増税賛成だから結局、安倍は先送り断念に追い込まれただろう。そうなったら政権の求心力は低下する一方、景気は悪化するので最終的に政権が崩壊してもおかしくない。
それどころか、増税せざるをえなくなった安倍政権は財務省にとって、もはや用済みである」

 そうさせないために安倍は解散に打って出た。その結果、増税派も雪崩を打って先送り容認に動き「戦う前から安倍首相の完勝である」と言うのである。

 そんなバカなことがと、私は思うが、選挙民の最大の悩みは自民党は嫌だけど入れたい政党がないということだろう。そういう人は共産党か、それが嫌なら公明党でもいい。今度の選挙は争点がないと言われる。飯島氏の言うように野党がバラバラだから自民は負けないと高をくくり、単独過半数を維持したらアベノミクスが支持されただけでなく、原発再稼働も特定秘密保護法も憲法九条を蔑ろにしたこともすべて信任されたと、安倍首相は言い出すに決まっている。
 そうさせてはいけない。この選挙を通じて国民の意思を表明するためには、自民党を勝たせないことだ。
 『ポスト』は「295選挙区&比例区完全シミュレーション」して、「安倍自民過半数割れ」すると報じている。
 それは「自民党王国」と呼ばれる自民党岐阜県連の県議や市議、支持団体幹部たちが解散表明の3日前(11月15日)にこう決議したことである。

 「県内の業界団体の大半から『仕事はあるが、利益が出ない。いつもの年より厳しい年末になる。選挙をやっている余裕はない。選挙が年末商戦に響く。何のための解散なのか、意味が良く分からない』と反対や疑問視する声が相次いで出ている」

 さらに『ポスト』によれば、自民党はさる11月15~16日に重点選挙区の情勢について独自の世論調査を行なったという。しかし幹部たちは結果を見て色を失った。

 「1か月前の10月に行なった調査では、いま解散しても重点選挙区の取りこぼしはほとんどないという圧勝の数字が出た。官邸は気を強くして解散へと舵を切ったが、今回の調査では有権者の空気がまるで変わり、厳しい選挙区が大きく増えていた。明らかに逆風が吹き始めている。
 自民党支持層を固め切れていないのが大きい。逆風を止められなければ、短期決戦でもわが党は40~50議席ぐらい減らす可能性があると党執行部は青くなってきた」(自民党選対幹部)

 政治ジャーナリストの鈴木哲夫氏もこう語る。

 「小沢(一郎=筆者注)氏はここぞというときには隠密行動で仕掛ける。最近も、維新の橋下共同代表や政敵の間柄と見られている民主党の前原誠司・元代表と会談して非自民勢力結集の必要性を説いたという情報がある。
 リアリストの小沢氏は新党がすぐには無理でも、民主と維新が中心になって全国に野党統一候補を立てることで自民党と互角に戦う体制をつくることが重要と分析しており、非自民勢力結集を自分の最後の仕事と考えているのではないか」

 『ポスト』のシミュレーションでは、自民党は現有295議席から60議席以上減らして単独過半数割れの231議席という衝撃的な惨敗予測となったというのだ。
 意外な安倍自民党への逆風に、安倍首相は北朝鮮と組んで選挙中に拉致被害者の「生存発表」という大陰謀を考えていると『ポスト』は報じているが、この数字は安倍を慌てさせるに十分であろう。

 『現代』も50議席減り選挙後一気に倒閣へ動くと読んでいる。
 安倍総理と会談をした米プリンストン大学教授のポール・クルーグマン氏は、「いますぐにでも消費税を5%に戻すべきだ」と言っている。
 同様のことを世界的投資家のジム・ロジャーズ氏も言っているのである。
 政治アナリストの伊藤惇夫(あつお)氏はこう分析している。

 「常識的に考えれば、与党は議席を減らします。前回の12年の衆院選で自民党は大勝しましたが、実は小選挙区での得票率は、大惨敗を喫した09年の衆院選に比べて、わずか4%強しか増えていません。(中略)
 今回の選挙では野党の候補者調整がうまくいけば、自民党の負ける小選挙区が出てきます。もし40議席から50議席を減らすことになると、安倍政権の先行きに暗雲が漂い、来年9月の総裁選での再選に暗い影を落とすでしょう」

 政治評論家の浅川博忠氏も、

 「協調が完全にうまく行けば、野党合わせて200議席に届く可能性もある。いまのままでは難しいと私は予測していますが、何かきっかけが起これば、わからない」

 安倍政権批判の舌鋒鋭い大橋巨泉氏も『現代』でこう書いている。

 「安倍の真意を読み解こう。今までもたびたび書いて来たが、彼の本当にやりたい事は、『憲法改正』であり、『集団的自衛権』である。しかしこれを争点に選挙をしても勝てない。原発再稼働をテーマにしたら確実に負ける。だから支持率が高く、野党が分散して弱いうちに、特に争点のない選挙をやって、とりあえず勝っておこうという、憲政史上かつてない、ふざけた解散なのだ。
 日本はマスコミがだめだから、あたかも安倍が、豪州のG20で大活躍したように報じているが、実際に豪州に居たボクは、あちらの新聞やテレビに、安倍が大きく取り上げられていたのを、見たことがない」

 安倍首相の目論見通りには行かない雰囲気が出てきたと、私も思う。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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