平安前期の貴族で学者であった菅原道真が亡くなったのは、903年(延喜3)2月25日。春を間近にして菜種の花が咲く時期であり、菜種の音が「なだめる」に通じるところから、北野天満宮(上京区)で御祭神・菅公の祥月忌日に、菜種の花を供える菜種御供が行なわれるようになった。いまから900年あまりも前のことである。明治期以降、花の種類は梅の花となり、名称は梅花御供(ばいかのごく)へと変わり、現在は梅花祭(ばいかさい)と呼ばれている。

 参道から本殿の脇に広がる梅園は、ちょうど梅が咲き香る時期である。1587(天正15)年に豊臣秀吉が北野天満宮境内で催した北野大茶湯は有名であり、この秀吉の故事に因み、1952(昭和27)年からは花街・上七軒(かみしちけん、上京区)の芸妓や女将が総出でくりだし、野点(のだて)を催して祭りに花を添えている。大茶湯で秀吉に賞賛されたことをきっかけに、末永く受け継がれてきた茶菓も多く、真盛豆(しんせいまめ)はその一つだ。上七軒の中にある西方尼寺(現・西方寺)は、大茶湯で千利休が用いた「利休の井」が残る寺で、この寺院の名物であった真盛豆を、利休が秀吉にすすめて気に入られたという。以来、千家の茶道とともに歩みながら工夫が凝らされ、今日まで普及してきた豆菓子である。


竹濱義春老舗の真盛豆。黒豆を大豆粉と水飴などで練った「すはま」で包み込み、青海苔で覆ったもの。単に豆菓子と呼ぶのは憚られる風味豊かな和菓子だ。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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