私が就職試験を受けるために企業の情報を集めていた1969年頃だったと記憶しているが、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだった渡辺プロダクション(通称ナベプロ)が、大卒を採用すると発表して話題になったことがある。

 園まり・中尾ミエ・伊東ゆかりの三人娘をはじめキラ星の如くいるスターに会える、彼女たちのマネジャーになれるかもしれないと、競争率は相当なものになったようだ。

 私も受けてみようかと思ったが、ぐずぐずしているうちに締め切られてしまって残念な思いをしたことを覚えている。

 あのときナベプロに入っていれば、憧れの女性歌手や女優のマネジャーになり、ひょっとすると結婚していたかもしれない。そんなことを思い描いたこともあったが、編集者になりほんの少し芸能界を垣間見たが、とても私にはつとまらなかったと思う。

 なぜなら『週刊現代』(3/7号、以下『現代』)が書いているように、スターとマネジャーの関係は「王様と奴隷」、絶対服従が当たり前だからである。

 芸能界の「ゴッド姉ちゃん」和田アキ子の元マネジャーでホリエージェンシー社長の小野田丈士氏は、和田とキャバレー回りをしていた頃、深夜に突然和田が「イチゴが食べたい」と言い出し、ホテルを飛び出して果物屋をたたき起こし定価の何倍かのカネを払って戻ると、「もういらない」と言われ、なんて理不尽なんだと絶句したと話している。

 あるとき和田とそば屋へ入ったとき、彼女が天ぷらそばを頼んだので同じものを注文したら、「あんたは、私よりワンランク下を頼みなさい」とたしなめられたそうだ。一番安いものを頼むと、傍から和田が苛めているみたいに取られかねない。ワンランク下がちょうどいいのだそうだ。

 小野田氏に言わせれば、マネジャーは「担当するタレントがいかに気持ちよく働けるかを24時間考えて行動する。『自己犠牲』の精神なくしてはつとまらない職業」らしい。私にはとてもつとまらない。

 私も贔屓だった若山富三郎という俳優がいた。なかでも藤純子主演の『緋牡丹博徒』シリーズで、お竜の義兄弟の熊虎親分ははまり役だった。

 そのマネジャーだった丹治勤氏は壮絶な若山との付き合いをこう語る。

 「たとえば、若山さんが左手を上げたら、間髪入れず火をつけたタバコを指に挟まないといけない。ちょっとでも遅れたらカミナリが落ちる。右手を上げたら手鏡を持たせ、目の前で両手を合わせたら台本を差し出す。まるでブロックサインです(笑)」

 それでも厳しい分、情にも厚かったという。丹治氏が結婚すると報告に行くと、「そうか、お前にも苦労をかけたな。ハワイで結婚式を挙げろ」と言って新婚旅行の手配をしてくれ、結婚した後はお年玉が1万円から10万円になったという。

 「昭和の歌姫」美空ひばりの元マネジャーだった川野知介氏は、マネジャーの覚悟をこう話している。

 「この仕事は、自分が花道を歩こうなどと思ってはいけない。花道を歩くのはスター。マネジャーは奈落を歩き続けるつもりでないとつとまりません。『忍』の一字です」

 女性タレントを担当するにも相応の気苦労があると、小林幸子や内田あかりを担当した酒井和彦氏が言う。

 「女性タレントの場合は体調管理もマネジャーの仕事。生理があるので、それもちゃんと把握しておく必要があるんです。生理のときは音程が狂うので、絶対レコーディングはさせられない」

 ここまで気を遣わなくてはいけないのか。やはり私には無理だった。

 女性タレントとマネジャーが結婚したりするケースがときどき見られるが、こうした「禁断の恋」がなぜ起こるのか。元マネジャーが、売れっ子のアイドルは忙しくて恋をする時間がないし、自由時間が早朝と深夜なので普通の人とは付き合えないからだと解説する。そのうえ、彼女たちは恋に対する憧れや夢が人一倍強いそうだ。

 「土日は地方に営業に行くことが多いのですが、そうなるとマネジャーと二人きりになる時間が増える。そんなとき、何かの拍子でふと、『この人は私のためにこんなに尽くしてくれるんだ』という思いに駆られ、恋と錯覚することがあるんです」(元マネジャー)

 彼女たちは「恋に恋してる」だけなので、マネジャーは上手にあしらわなければいけないのだが、なかには彼女たちの思いを利用して手を出す不心得者が出てくる。そこがアイドル担当の難しさだと話すが、したがってこうしたケースでは結婚してもうまくいかないことが多いのであろう。

 NHKの朝ドラ『マッサン』の主役で売れた玉山鉄二のマネジャーが、玉山が売れない頃、彼と一緒にプロデューサーのところを回って頭を下げたという話をしている。

 そうした苦労を経て玉山が売れ、自分がやってきたことは間違っていなかったと一人密かに喜ぶのもマネジャー冥利なのだろう。

 私も何人か、タレントのマネジャーからプロダクションの社長になった人間を知っているが、彼らに共通しているのは、自分の担当したタレントは命をかけて守る、女性タレントであれば「商品には絶対手を出さない」ことを墨守して、信用を築いて一国一城の主になっている。私のようにあわよくば女性アイドルと懇(ねんご)ろになどという疚(やま)しい動機でマネジャーになった人間は、芸能界から永久追放されるのが関の山だったであろう。道を間違えなくてよかったとつくづく思う。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は週刊誌ならではのスクープ記事を2本と、安倍首相に媚びへつらう大メディアの問題を取り扱った1本を紹介しよう。日に日にミニヒットラー化していく気がする安倍首相へ警鐘を鳴らせるのは週刊誌しかないのではないか。そんな思いから選んでみた。

第1位 「安倍ショック! “お友達”下村博文文科大臣 塾業界から『違法献金』」(『週刊文春』3/5号)
第2位 「『ヤジ総理』に媚びへつらう大新聞と検察は恥ずかしくないのか」(『週刊ポスト』3/13号)
第3位 「『朝日新聞』から漏れ出た『販売秘密資料』の数字に愕然!」(『週刊新潮』3/5号)

 第3位。『新潮』は朝日新聞が部数的にも深刻な事態に陥っていると報じている。
 『新潮』が入手した「社外秘 2014年度ASA経営実態調査報告書」によれば、「朝日新聞の実際の売れ具合を示す〈発証率〉が、〈セット平均〉で〈71.0%〉となっている」そうなのだ。
 したがって本当に売れているのは約7割しかなく、残りの約3割は「古紙」と化しているということである。
 今年1月の時点の公表部数は読売新聞が約920万部、朝日新聞が約680万部。しかし実態がこうなら500万部程度しか出ていないということになる。
 もちろん読売も何割かは割り引かねばならないだろうが、さらに深刻なのは、この調査が2014年5月だということだ。
 慰安婦問題が起きたのは昨年の8月だから、さらに朝日新聞の部数減に勢いがついたことは間違いない。

 第2位。『ポスト』は“疑惑の専門商社”と呼ばれる西川公也(こうや)前農水相への国会追及を、新聞が権力の手先となって潰そうとしたという「疑惑」が明らかになったと報じている。
 さらに、衆院予算委員会でこの問題を追及した民主党の玉木雄一郎代議士に対して、安倍首相は「日教組! 日教組どうすんだ」と大声で品のないヤジを飛ばした。
 『ポスト』によれば「西川疑惑と日教組問題の類似性はネットで指摘され、いわゆるネトウヨの間で広がっていたが、実際は日教組は国の補助金は受けておらず、そもそも民主党への献金もなかった。後日、首相は国会でしぶしぶ訂正したが、謝罪の言葉はなかった(『遺憾』とは言ったが)」。その次に安倍首相が企んだのは「西川隠し」だった。

 「西川大臣を辞任させたのは、政治資金疑惑の責任を取らせたわけではなく、国会答弁で矢面に立たなくていいようにするためだった。その証拠に、西川氏をそれまで林氏(芳正農水相=筆者注)が就いていた農水族の頂点に立つ自民党農林水産戦略調査会長にスライドさせ、『農水利権』を再びガッチリ握らせた」(『ポスト』)

 こうしたことを大新聞は批判するのではなく、見て見ぬフリをしたり、何も問題がないかのように報じることさえしないのだ。
 さらにフジテレビは昨年、安倍首相の甥(安倍氏の実弟、岸信夫・代議士の息子)を入社させるなど、安倍氏の血脈をしっかり取り込んでいると『ポスト』は報じている。

 「いまや読売、朝日など大メディアはこぞって“産経に後れをとるな”とばかりに安倍首相に擦り寄り、権力監視機能は形骸化、それをいいことに検察も政権に甘くなる。国会でも野党は大きく議席を減らし、権力をチェックするのは週刊誌と一部のネットメディアくらいになった」と『ポスト』は嘆く。

 本当に最近の安倍首相の物言いや態度は、言い古された言い方になるが「ミニヒットラー」のようだ。それを増長させているのが大メディアであることは間違いない。

 第1位。『文春』が安倍首相の「お友達」である下村博文(しもむら・はくぶん)文科大臣が「塾業界から違法献金」を受けているとスクープした。
 下村氏は父親の事故死で苦労して早稲田大学に入学し、在学中から学習塾を経営していたという。卒業後は「博文進学ゼミ」を会社化して本格的に塾経営に乗り出している。
 その後は都議を経て1996年に衆議院議員に初当選。文教族として実績を積み上げると同時に、学習塾の経営者などを中心にした全国網の後援会「博友会」が組織されていった。
 学習塾の期待を集める業界出身初の国会議員なのだ。われらが業界の星が念願の文科大臣にのし上がったのである。
 だが、しがらみが強ければ強いほど、口利きや献金には敏感になるべきだが、どうもこの先生、そうではないようなのだ。
 『文春』によれば、博友会の名前を冠にする下村氏の後援会は10団体。このうち政治団体として届けがなされているのは東京都選管に届け出されている博友会だけだそうだ。
 毎年、全国にある博友会に下村先生が講演に訪れたり、懇親パーティーも開かれているのだが、政治団体として届け出されていないから、資金の流れは一切表に出てこない。
 下村事務所は、東京以外は政治団体ではなく任意団体だから届け出する必要はないと説明するが、『文春』が取材した結果、これらは政治団体そのものだというのである。
 東北博友会作成の文書には「下村博文議員を応援する人々による全国組織」とあり、下村氏もフェイスブックで「私の全国にある後援会の一つである、中部博友会講演会で、名古屋に来ています」と書いている。
 だが、2009年、2011年の所得等報告書には講演会の謝礼(最低30万円だそうだ)の記載はないという。『文春』は「講演料を『裏金』として受け取っていた可能性がある」と追及する。
 そのほかに、各博友会では年会費を取っているが、これが寄付にすり替わっていると指摘する。それ以外にも下村氏の周りには「黒い人脈」もあるそうだ。
 政治資金に詳しい上脇博之神戸学院大学法科大学院教授は、博友会は実態を見ると任意団体を装った政治団体で、下村氏が実質的な代表者だと見なされれば5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる可能性があると指摘。さらに支払い義務が生じる年会費として受け取っていたものを小選挙区支部の収支報告書に個人の寄付として記載してあるなら大問題だとし、「代表者である下村氏が事情を承知しているのであれば、虚偽記載や、場合によっては詐欺に当たる可能性」があるというのだ。
 この問題は早速2月26日の衆院予算委で柚木道義委員(民主)が取り上げた。
 だが「下村氏は『寄付や、パーティー券の購入などはない』と述べ、政治資金規正法違反の疑いがあるとする報道内容を否定した」(26日のasahi.comより)
 しかし「六つある博友会の一つで近畿博友会の会長という男性は朝日新聞の取材に対し、『年1回、下村さんのパーティーをしている。(下村氏が代表の)自民党東京都第11選挙区支部に1人あたり12万円を納めてもらう呼びかけもしている』と話しており、下村氏の説明と食い違っている」(同)と、この程度の答弁で収まりそうにはない。
 『文春』は安倍首相と考えが極めて近い田母神俊雄(たもがみ・としお)氏(元航空幕僚長・66)が、都知事選で集めた政治資金を「選挙での買収など不正に使った」ことを示す内部資料を田母神事務所から入手したとし、警視庁が重大な関心を寄せていると報じてもいる。
 いやはや、浜の真砂は尽きるとも世に怪しい政治家の種は尽きまじか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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