大阪府寝屋川市出身。お笑いコンビ「ピース」のボケ役。吉本興業東京本社所属。35歳。2015年1月に発売された『文學界』(文藝春秋)2月号に初の中篇小説『火花』を発表。発売と同時に話題になり、同誌創刊以来初となる重版がかかった。

 『火花』が15年上半期の芥川賞にノミネートされ、羽田圭介(はだ・けいすけ)の『スクラップ・アンド・ビルド』(文學界)とともに、お笑い界初となる第153回芥川賞を受賞した。

 『週刊現代』(8/8号、以下『現代』)によれば、両親と姉2人の5人家族。部屋は姉と同室だった。家は裕福ではなかったようだ。そうした物に恵まれなかったことが、一日中紙に絵を描いて過ごすなど、空想を膨らますクセをつけ、「足るを知る」姿勢を与えたのではないのかと『現代』は推測している。

 太宰治に影響を受け、読書家ではあったが、北陽高校時代はサッカー部に所属して3年時にはスタメンに入りインターハイにも出場しているスポーツマンでもある。

 中学・高校時代は目立たない学生だったが、文化祭などでは漫才をやったりしていたという。高校卒業後、お笑い芸人になりたいと打ち明けられた両親は驚いたが、反対はしなかった。

 「もちろん現実は厳しくて、芸人を志して10年以上売れなかった。心配してあの子に問うと『テレビに出るだけが芸人じゃない。舞台だけの芸人や営業専門の芸人もいる。俺は何としてでも芸人としてやっていく』という返事でした」(母・みよ子さん)

 と、ここまでは芸人・又吉が芥川賞作家になるまでの概略である。

 芥川賞は新人に与える賞だから、又吉が受賞してもおかしくはない。だが私は、彼にはもう一作書かせてからにしたほうがいいと思っていた。だから、『火花』を読む気にはならなかった。芥川賞を受賞したがその後書けずに消えてしまった作家も多くいる。

 だが、出版界は長引く不況で堪(こら)え性がなくなってしまったのかもしれない。話題先行、売れるものがあればすぐに飛びつく。

 とまあ、こんなことをウダウダ考えながら又吉の『火花』をあまり期待せずに読み始めた。だが、書き出しの数行で、この男ただものではないかもしれないと思った。

 「大地を震わす和太鼓の律動に、甲高く鋭い笛の音が重なり響いていた。熱海湾に面した沿道は白昼の激しい陽射しの名残りを夜気で溶かし、浴衣姿の男女や家族連れの草履に踏ませながら賑わっている。沿道の脇にある小さな空間に、裏返しにされた黄色いビールケースがいくつか並べられ、その上にベニヤ板を数枚重ねただけの簡易な舞台の上で、僕達は花火大会の会場を目指して歩いて行く人達に向けて漫才を披露していた」

 書き出しにこそ神は宿る。売れない漫才師が花火大会の余興に呼ばれ、粗末な台の上で漫才らしきものを大声でやるが、花火に急ぐ人たちは足を止めてくれない。

 芸人とその世界が抱える不条理。これから描かれるであろう売れない芸人の悲哀と破局を予感させる。

 又吉の分身である徳永と、彼が漫才師として尊敬する先輩・神谷との関係を中心に話は展開する。四六時中、芸のことを考えているのに売れない芸人のやり切れなさや、相方との行き違いなどのエピソードを織り交ぜながら、全体を貫いているのは「全身漫才師」として生きようとする神谷の苦悩と狂気である。

 又吉の考える「漫才論」もそこここに散りばめられている。たとえばこういう箇所がある。

 「必要がないことを長い時間をかけてやり続けることは怖いだろう? 一度しかない人生において、結果が全く出ないかもしれないことに挑戦するのは怖いだろう。無駄なことを排除するということは、危険を回避するということだ。臆病でも、勘違いでも、救いようのない馬鹿でもいい、リスクだらけの舞台に立ち、常識を覆すことに全力で挑める者だけが漫才師になれるのだ」

 だが、読後感は残念ながら満足感とはやや遠いものであった。

 売れない芸人としての悲哀も、神谷の狂気も、私にはさほどのものとは思えなかったからだ。それに徳永や神谷の「芸」が、私には少しもおかしくなかった。

 これでは漫才師としては売れないだろうな、そう思わざるを得なかった。

 本を読んだあとYouTubeで「ピース」のコントを何本か見てみたが、クスリとも笑えなかった。

 もっとも、私にとっての漫才は横山やすし、西川きよしで終わっているから、わからない私のほうが悪いのかもしれないが。

 海援隊の武田鉄矢をもう少し暗くしたような又吉の顔は、すでに作家の顔である。

 太宰が好きで、太宰忌(桜桃忌)には毎年、追悼の「太宰ナイト」をやっているそうだから、気分も生き方もすでにして作家なのであろう。

 小説の中の徳永は、少し売れてきたのに漫才から足を洗ってしまう。又吉もそうなるのではないか。

 そう思うのは、あの若さで抱え込んでいる闇の深さのようなものが気になるからである。太宰は38歳で玉川上水に身を投げた。私が好きだった落語家・桂枝雀(かつら・しじゃく、享年59)は舞台で見せる破天荒な明るさの裏に狂気を時折垣間見せていたが、突然、自死してしまった。又吉の持つ暗さが、太宰を気取っているだけならいいのだが。

 私は芥川賞受賞作を毎回読んでいるが、ここ10年を見てみても、いい小説を読ませてくれてありがとうと思えるものがほとんどない。その理由に、出版社側のじっくり作家を育てようという志の希薄化や選考委員の小粒化などがあげられるかもしれない。

 いきなり「大作家」と持ち上げられ神輿に乗せられた又吉が、自分を見失わずにどういう「文學」を紡いでいけるのか。期待と不安が半々である。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 戦後70年の節目の年を迎えて、8月に出すといわれる安倍首相の「談話」に注目が集まっている。全体的には戦後50年の「村山談話」を継承するとは言っているが、一つの言葉が中国や韓国だけではなく欧米の対日感情をも暗転させかねない。そんな中でもう一つの「談話」が発表されるという情報が駆け巡っているというのだ。安倍政権への批判を強めている(と私は考えている)天皇の「談話」である。天皇VS.安倍、勝つのはどっちだ!

第1位 「安倍が怖れる『天皇談話』のあの“お言葉”」(『週刊ポスト』8/7号)
第2位 「『株主代表訴訟』対策か 東芝前社長 自宅を妻に生前贈与!」(『週刊現代』8/8号)
第3位 「元慰安婦が実名告白『韓国政府も日本とちゃんと話し合いなさい』」(『週刊文春』7/30号)

 第3位。『文春』が韓国の元慰安婦の実名告白を掲載している。読んでみたら失礼ながら“真っ当”な記事である。この李容沫(イ・ヨンス)さん(86)は、これまでもメディアに出て日本政府を批判してきたが、ここへきて身内である韓国の支援団体や韓国政府を批判していると、勇躍、『文春』の記者は韓国・大邱(テグ)市の郊外に飛んだ。
 彼女の言い分は、戦後日本からの経済援助で経済発展してきた韓国政府が、慰安婦問題を解決するために日本とちゃんと話し合って、積極的にやってほしいというのである。

 「ハルモニたちが生きているうちに、両国政府がきちんと話し合って、早く平和的に解決しないとダメなのです」(李さん)

 その通りである。この中で、彼女は数えで16歳のある夜、日本の軍服を着た男女に拉致され、大連から上海に連れて行かれて暴行された後、台湾の新竹の慰安所で働かされたと話している。これが「軍の強制」でなくて何と言おう。
 安倍首相が本当に日韓関係を何とかしたいのなら、慰安婦問題について朴槿恵(パク・クネ)大統領とすぐに会うべきである。

 第2位。さて大企業・東芝が揺れている。田中久雄社長(64)が辞任することになったが、『現代』は、田中氏に重大な疑惑ありと報じている。
 田中社長が会見で語った内容を要約すれば、全社的に不適切な会計処理が行なわれていたから、会社のトップとして責任をとって辞任するが、自分は不正に手を染めたという認識はない。田中社長はそんな自己弁護を会見で言い続けたのである。
 『現代』によれば、それは巨額の損害賠償訴訟に備えて、今から「自分は無実」と予防線を張っていたに違いないというのである。
 今後、東芝経営陣は2種類の損害賠償請求訴訟を提訴される可能性があるという。一つは、有価証券報告書に虚偽記載がされていたために株価が下落し損害を被ったとして、株主が会社や経営陣に損害賠償を求めるというもの。
 もう一つが株主代表訴訟。こちらは会社に与えた損害を会社側が経営陣に請求しない場合、株主が代わりに損害賠償請求を提訴するもの。
 しかし『現代』によると、田中社長は今回の不正会計問題が公になる前に、自らが所有する自宅マンションの所有権を移転しているというのだ。

 「田中氏が横浜市内の自宅マンションを贈与という形で所有権移転したのは、今年3月7日のこと。97年に新築で購入した、約70㎡の部屋である」(『現代』)

 贈与相手はこの部屋に田中氏とともに住む田中姓の女性であるというから、贈与相手は妻と見るのが自然であろう。
 SESC(証券取引等監視委員会)の指摘を受けて、東芝は社内で自己調査を開始したが、そんな最中に田中氏は自宅マンションを贈与していたことになるのだ。
 第三者委員会の委員長・上田廣一氏は元東京高検検事長。その彼が、

 「日本を代表する大手の会社がこんなことを組織的にやっていたということに衝撃を受けた」

 と、記者会見で慨嘆した。経済ジャーナリストの町田徹(まちだ・てつ)氏はこう難じている。

 「検察が出ていって、この粉飾に落とし前をつける。刑事責任を追及すべきです。東芝がナマぬるい処分で終われば、国策企業は守られるということになるので問題です。刑事責任を追及すべきは、退任を発表した歴代3社長だけではありません。組織的な粉飾を行っていたわけですから、粉飾にかかわった部長以上、執行役員、カンパニー社長まで全員を対象にすべきです」

 ウミをどこまで出せるかが、今後の東芝を占ううえで試金石になるはずだ。

 第1位。今週の第1位は『ポスト』の「安倍首相VS.天皇」の記事。
 8月に出される戦後70年の区切りの安倍首相の「談話」だが、6月下旬には首相自らが戦後70年談話を閣議決定しない方針を明らかにした。戦後50年の村山談話、戦後60年の小泉談話は閣議決定され、8月15日に発表されたのにである。
 『ポスト』は、安倍首相は何かを恐れている、それは安倍談話を覆しかねない「もうひとつの戦後70年談話」なのだというのだ。
 安倍首相が歴史認識の転換を行なう内容の70年談話を出した場合、全国戦没者追悼式とは別に、天皇の特別な「戦後70年のお言葉」が発表されるという情報が流れているというのだ。
 自民党幹部がこう語る。

 「終戦記念日に陛下が先の大戦についてメッセージをお出しになるのではないかという情報は5月頃から流れている。陛下は先帝(昭和天皇)から、先の大戦で軍部の独走を阻止できなかった無念の思いや多大な戦死者と民間人犠牲者を出したことへのつらいお気持ちを受け継がれている。万が一、お言葉の中で首相談話から省いたアジア諸国の戦争被害に対する思いが述べられれば、安倍首相は国際的、国内的に体面を失うだけでは済まない」

 今年の1月には新年の「ご感想」で、軍部独走のきっかけとなった「満州事変」をあげて、「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」と語り、4月には、体調不良を押して日米の激戦の舞台となったパラオを訪問している。
 『ポスト』によれば、特に官邸を仰天させたのは、6月3日に国賓として来日したアキノ・フィリピン大統領の宮中晩餐会で天皇が述べた次の「お言葉」だったという。

 「先の大戦においては、日米間の熾烈な戦闘が貴国の国内で行なわれ、この戦いにより、多くの貴国民の命が失われました。このことは私ども日本人が深い痛恨の心と共に、長く忘れてはならないことであり、取り分け戦後70年を迎える本年、当時の犠牲者へ深く哀悼の意を表わします」

 宮内庁関係者もこう話す。

 「陛下のお言葉に安倍総理は真っ青になったようだ。陛下は先の大戦を“侵略”ととらえ、お詫びする気持ちが込められていると受け止めたからだろう」

 そこに宮内庁側から二の矢が放たれたと『ポスト』は言う。
 7月9日、宮内庁は昭和天皇の「玉音放送」の録音原盤と、終戦を決めた「御前会議」が開かれた皇居内の防空壕内部の写真と映像を8月上旬に公開する方針を明らかにしたのである。
 天皇のご学友で元共同通信記者の橋本明氏はこう見ているという。

 「ほとんど知られていませんが、陛下は4月のパラオ訪問に出発する際、羽田空港に見送りに来た安倍首相を前にこう仰っています。
 『(先の大戦では)激しい戦闘が行なわれ、いくつもの島で日本軍が玉砕しました。このたび訪れるペリリュー島もそのひとつで、この戦いにおいて日本軍は約1万人、米軍は約1700人の戦死者を出しています。太平洋に浮かぶ美しい島々で、このような悲しい歴史があったことを、私どもは決して忘れてはならないと思います』。首相へご自身の思いを伝えたい気持ちが強かったのではないでしょうか」

 しかし日本国憲法で天皇は政治的な発言をしてはいけないとされている。そこで宮内庁は、その対策として14年3月31日に退官した竹崎博允(たけさき・ひろのぶ)・前最高裁長官を今年4月1日付で「宮内庁参与」に起用したというのである。
 竹崎氏は文字通り憲法の最高権威である。

 「最高裁の前長官を参与にしたのは安保法制などについての憲法判断について意見をすぐ聞けるようにという配慮ではないか。そうした法律顧問がいれば、ご自身のお言葉として憲法上、どこまで踏み込めるのかという判断についても意見を求めることができる」(宮内庁関係者)

 支持率が下がり続ける安倍首相だが、手負いの安倍を追い詰める最後の切り札が、8月に出される天皇の「お言葉」だとしたら、安倍首相は亡き祖父・岸信介に何と言って詫びるのであろうか。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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