自分自身の半生を振り返り、文章にしてまとめる「自分史」。その自分史の新しいスタイルとして、子どもが親の自分史を雑誌形式でまとめる「親の雑誌」が話題になっている。

 これまでの「自分史」といえば、退職や長寿のお祝いなどの記念に親類縁者に配るもので、自分が自分のために自費出版するものというイメージが強い。価格も数十万~百万円程度かかるため、誰もが簡単に作れるものではなかった。

 こうした大掛かりなものではなく、手軽に自分史を作れるようにしたのが「親の雑誌」だ。自分のためではなく、子どもなどの家族が親のために注文して作るもので、取材込みの制作費は5万円。雑誌形式の自分史が5冊から作れる。

 手がけているのは、ひとり暮らしの高齢者の安否確認や見守り、健康管理などの事業展開を行なっている「株式会社こころみ」だ。

 こころみでは、見守りの手段として、担当の職員がひとり暮らしの高齢者と電話で会話をして、その内容を離れて暮らす家族にメールで伝えるというサービスを行なっている。「親の雑誌」は、この高齢者の話を「聞く」というサービスから派生したもの。

 担当職員が、高齢者の自宅を訪問し、写真撮影を行なったうえで、生まれてからこれまでの親の歴史をインタビューする。その後、電話でのフォローを行ない、「親の歴史」を全16ページ、オールカラーでまとめて2か月ほどで完成する。

 最初は創刊号として刊行し、その後は希望に応じて、2号、3号と親の日常生活を綴る雑誌を作り続けていくことも可能だという。

 離れて暮らしていると、親が元気でいるのか、どのように毎日を暮らしているのかを知るのが難しいこともある。それとなく尋ねようにも、日々の些事に追われて、親のことはつい後回しなってしまいがちだ。

 だからといって、親に面と向かって「業者の見守りを受けてほしい」とは言いにくいものがある。「親の雑誌」は、親を心配する子どもの気持ちを「自分史を作る」という名目で代弁する、新しい形の見守りツールともいえる。

 「親の雑誌」を作ることで、それまで知らなかった親の一面、現在の日常生活を子どもが知ることもできるかもしれない。だが、それは本当に親が望んでいることなのか。

 もしかしたら、「親の雑誌」が広まることは、リアルな親子関係を希薄にするのではないかといった心配も生まれる。

 高齢化社会のなかで生まれた新ビジネスは、これからの親子関係にどのような影響をあたえるのか。親の自分史を作るといった見守りサービスの先にあるものを見極める必要があるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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