「漫画」を題材にした『バクマン。』(原作・大場つぐみ、作画・小畑健)は、2012年に『週刊少年ジャンプ』での連載が終了した作品だが、映画化されて再び注目を浴びている。そのストーリーには、すでに『デスノート』でヒットを飛ばしていた作者コンビの歩んだ道程が反映されており、少年漫画らしい誇張を加えつつも、エピソードの一つひとつがじつにリアルであった。

 漫画家になるまでの紆余曲折、そしていざプロになってからの創作者としての戦いは、ドラマ性に満ちている。それ自体が漫画のテーマとしておもしろいものなのだ。そこに気付いたか、ここ数年、漫画界のベテランたちがこぞって自伝的漫画を発表している。永井豪氏の『激マン!』、車田正美(くるまだ・まさみ)氏の『藍の時代 一期一会』などはその代表的な存在。中でも島本和彦氏による『アオイホノオ』は、テレビ東京でドラマ化され、柳楽優弥(やぎら・ゆうや)の熱演が話題になった。このジャンルには、藤子不二雄A氏の『まんが道』という偉大な名作があって、かえって大御所たちが手を出さないところもあっただろう。が、「かつて漫画に勢いがあった時代の裏側をもっと知りたい」ニーズが認識され、今後はさらに増えていくのではないか。

 こうした昔語りの作品とまったく異なったところから、自伝的漫画の傑作も誕生している。「マンガ大賞2015」を受賞した『かくかくしかじか』だ。作者の東村アキコ氏は、この作品で漫画業界の裏話についてほとんど描いていない。地方在住だった少女を美大合格へ導き、やがて目標であった漫画家生活に至らしめた恩人の「先生」について描く。ここで自分の苦労を美化していないのはさすがだ。本作はほかの自伝的漫画とは性質が異なって、年齢のあまり離れていない若い読者に向けた語り、真摯なメッセージとして読むことができる。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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