昔の京都では「厄払い」のことを、「やっこはらい」と呼んでいた。そして、節分の夜になると、「やっこはらい」という人が「やっこはらいまひょ」と声を立てながらやってきて、家々で厄払いをしていたそうである。大正の終わりごろに見られなくなり、今となってはどのような様子だったのか、あまり詳しくはわからなくなっている。

 『日本国語大辞典』で「厄払い」をひくと、意味の一つに「大晦日または節分などの夜に、厄年に当たる人の家の門などで厄難を払うことばを唱えて銭を請い歩くこと。また、その人。昔の追儺(ついな)の遺風という」とある。また、上方落語には「厄払い」という噺があり、その中に「やっこはらい」が登場している。噺の中で「やっこはらい」は、家人から金銭や米、豆などが渡されると、「さぁて、めでたいめでたいなぁ、めでたいことで祓おうなら、鶴は千年亀万年、浦島太郎は八千歳」などと唱えながら、厄払いの門付けを披露していたそうである。

 さて、京都の節分の日に食べる厄払いの晩ごはんは、恵方巻きもよいけれど、塩いわしと祝い菜のおひたし、麦ごはんにとろろ汁といったところが定番である。食事が終わったら豆まきだ。日の暮れないうちに大豆を煎っておき、家中の戸や窓を開け放って「鬼は外、福は内」と豆をまく。大豆を煎ってからまくのは、外で芽が出ないようにするため。まいた豆から芽が出ると、その家に災いが起きるという言い伝えがあるのだ。また、節分には名称に「ん」が二つある食べ物を7種類食べると、運が開けるともいわれている。平等寺(下京区)には、節分の夜の食物として、「なんきん、ぎんなん、れんこん、いんげん、にんじん、きんかん、かんとん(さつまいも)」の7種が伝えられている。


廬山寺(上京区)の追儺式鬼法楽より。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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