京都の豆腐はおいしい。豆腐嫌いでなければ、食べればわかる。その秘訣はなにかといえば、「豊富なおいしい水と良質の大豆に恵まれたから」と、数多の美食家が語り、小説の題材にもなってきた。現代でもそのような古くからの理由が通用するものかはわからない。それでも、室町時代から専業の豆腐売りがいて、よりおいしい豆腐を追い求め、特に絹ごし豆腐においては、並外れたこだわりが継承されてきた。そのようなところは、京都以外にはないだろう。一説に、京都人は精進料理のように、お金をかけない美食の追求においてこそ超一流だ、などと言う人がいる。確かにそれには一理があり、豆腐はその典型といえそうである。

 普通は豆腐がおいしいと、焼き豆腐も、揚げ豆腐も、お揚げさんも、飛竜頭(ひりゅうず)も、どれもおいしくできる。どれか一つ選ぶなら、やはり絹ごしの湯豆腐に舌鼓を打って楽しみたい。

 おいしい湯豆腐をつくるとき、まずは土鍋を用意し、たっぷり水を入れた鍋の底に、だし昆布を一枚か二枚しく。角切りにした豆腐を鍋に入れてから火にかける。豆腐がゆらゆらっと浮かび上がってきたら、よい頃合いである。すぐにすくい上げて食べなければいけない。このタイミングが意外と大切で、おいしい豆腐は少し煮え過ぎただけでも鬆(す)がたってしまうので要注意だ。なかには、煮え過ぎないように、だしに溶いた葛粉を入れておく人もいる。

 食べるときは、まず、おいしいおしたじ(醤油)が欲しい。薬味として欠かせないものは、薄く切った九条ねぎと鰹節である。ねぎは水にさらしたものがよい。ほかの薬味は多ければ多いほど楽しく、もみじおろし、ひね生姜のおろし、七味唐辛子、柚子の皮、山椒。時期によってはふきのとう、うど、みょうがなども合う。あとは、おしたじと鰹節、薬味を入れて、豆腐をつけて食べるだけ。豆腐に昆布だしがしみているだけで、こんなにおいしいものかと実感するはずである。


そろそろ浮きはじめて、まもなく食べごろ。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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