オムシとは味噌のこと。味噌を意味する「ムシ」に「オ」を付けた御所ことばの一つで、中世以降に皇族や公家などの高貴な女性が住持であった尼門跡寺院で使われていたことばである。味噌が材料を蒸してつくられるので、この名称が付けられたと言われている。昔から味噌と変わらない言い方で使われている。「オムシノオシル」や「オムシノオツユ」というと、味噌汁を表し、「オムシヅケ」とは味噌漬けのことである。また、柚子味噌のことを言う場合は「ユムシ」となる。

 オムシは、最近でこそ一般には聞かれなくなってきたが、味に関する御所ことばは、京都で長く使い続けられているものが多い。現在もよく聞かれることばとしては、お醤油を意味する「オシタジ」や「ムラサキ」がある。また、関東で一般的な色の濃い濃口(こいくち)醤油は「コークチ」と呼ばれていた。酢のことは「アマリ」と言う。また、「オシロモノ」とは塩のことで、寺院によっては「シロモン」や「オイタモノ」とも呼ばれていた。同じ意味で違う呼称がいろいろ存在する理由は、御所ことばと一口にいっても、実際は寺院や時代に応じていろいろな呼称に変化していたためである。

 味を表すことば遣いは、御所ことば以外でも微妙なニュアンスに富んで面白い。例えば、「うまい」より「おいしい」のほうが京都らしい。「まずい」と言いたいときは、「アジナイ」と言う。味が悪いときは「モムナイ」といって区別をする。食べられないほど辛い(塩辛い)ときは「ダダカライ」といい、「ダダ」は結構いろいろな場面で使われている。


松尾大社(西京区嵐山)は、酒造発祥説のある出雲松尾神社とともに、酒造神である松尾様こと久斯之神(くすのかみ)を祀る。米や大豆を発酵させ、酒や味噌を造り出したとき、古人は醸成(かみなし)た見えないものに対し、祈りを捧げていたのである。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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