安倍晋三という男に「虚言癖」があることはよく知られている。一番有名なのは東京五輪招致のプレゼンで「原発の汚染水はアンダーコントロールされている」から大丈夫だと、大見得を切ったことだ。

 だが、今回の虚言は、伊勢志摩サミットという世界の首脳が集まる場で行なわれたため、首脳ばかりではなく、世界中のメディアを呆れさせてしまった。

 5月26日、安倍総理はA4判の紙に書かれた数種類の指標を各国首脳に配り、こう説明したのである。

 「最近の商品価格は55%も下落し、落ち込み幅はリーマン・ショック時と同じ。また、新興国の投資伸び率はより低水準で、『資金流入』はリーマン・ショック以降もっとも低い水準にある。主要各国の成長率も下方修正が続いており、これまたリーマン・ショック時より悪い」(『週刊新潮』6/9号、以下『新潮』)

 この価格指数はさまざまな商品の価格を単純に平均しただけで、原油だけで全体の53.6%を占めている。原油価格が下落しているのはアメリカで起きたシェールガス革命をきっかけに、サウジアラビアが価格競争を仕掛けて過剰供給になったためだ。それに中国経済の失速もある。リーマン・ショックは米国の住宅バブル崩壊による金融危機だから、状況がまったく違う。

 シグマ・キャピタルの田代秀敏氏によると、燃料を除いた「非燃料価格」を見ると、安倍総理の出したデータより一気に約40ポイントも高くなる、石油以外の商品価格はそれほど落ちていないという。

 『新潮』は、そもそもリーマン・ショック前に迫っているなら、アメリカが利上げの準備を始めるわけがないし(編集部注:5月の雇用統計が厳しい結果だったことを受け、アメリカFRBは6月に予定していた利上げをしない方針を決定)、5月23日に内閣府が発表した「月例経済報告」では、世界経済は全体として緩やかに回復していると書いているではないかと安倍の「ウソ」を難じる。

 ドイツのメルケル首相に「危機とまで言うのはいかがなものでしょうか」とたしなめられ、英国のタイムズ紙に「世界の指導者は安倍の経済に対する懸念に同意しない」とまで書かれてしまったのだ。

 だが、安倍総理はサミット後の議長会見でも「リーマン・ショック以来の落ち込み」と何度も繰り返して失笑を買った。なぜ安倍総理は世界中が注視している中で、このような恥ずかしいゴマカシをしなくてはならなかったのか。

 それは、アベノミクスが完全に破綻した今、消費税10%アップを何としても延期したかったからである。リーマン・ショック級の危機に陥らない限り延期はないといっていた手前、そうした“事実”をつくり上げなければならなかったのだ。そのためには形振(なりふ)りなど構っていられなかった。

 ノーベル賞経済学者たちを招いて消費税引き上げに反対を唱えさせたのもそのためであった。そのうえ、サミットまで「言い訳」の場にしてしまったのだ。議長国だから、他国の首脳たちは礼節を守ってあからさまに非難しないのをいいことに、恣意的データとリーマン・ショックとを繰り返すことで、延期のアリバイ証明にしようと企み、サミット終了後、ぬけぬけと「世界経済がリーマン・ショック級の危機に陥るリスクがあります。増税は19年10月まで再延期したい」と発表したのである。

 当初は、サミット開催、オバマ大統領の広島訪問、消費税増税延期で内閣支持率を上げて、あわよくば衆院とのダブル選挙を目論んでいたのである。思惑通り消費税引き上げ延長を決めた後の内閣支持率は55.4%(産経新聞)にまで上昇している。

 だが、不思議なことにダブル選挙はやらないと発表したのだ。なぜなのか?

 そこには、安倍総理の側近たちの確執が顕在化して政権発足以来、最大の危機を迎えていたことが背景にあると『週刊文春』(6/9号、以下『文春』)が報じている。

 増税延期なら衆院を解散して信を問うべきだとする麻生太郎副総理兼財務相、それに同調する谷垣禎一(さだかず)幹事長VS.公明党の支持母体の創価学会幹部と「解散はない」という見解で一致していた菅義偉(すが・よしひで)官房長官の大バトルが繰り広げられたというのである。

 5月28日、午後8時半、安倍総理は麻生氏を公邸に呼んだ。そこで安倍は「消費税延期」を説明したが、麻生氏は、「前回増税延期を決めた時、十七年四月に引き上げると約束したはずです。経済状況は言うほど悪くない。再延期するなら、今回も衆院を解散して信を問うべきです」

 と反対した。その通りであろう。だが安倍は、

 「(サミットで)内閣支持率が上がった今、同日選をやれば、逆に『いい気になっているな』と思われてしまう」

 と首を縦に振らなかったというが、この同日選回避の理由には納得がいかない。安倍の悲願である憲法改悪には、自民党と改憲勢力を合わせて衆参ともに3分の2を超える数を集める必要があるからだ。

 安倍の右腕といわれる今井尚哉(たかや)秘書官も「参院単独で確実に改憲に必要な三分の二を取れますか。ここを逃すと、在任中の改憲が難しくなります。ダブルなら衆参ともに三分の二に届きます」などと進言し続けたそうだ。

 谷垣幹事長も「安定した安倍政権で無理なら、もう増税はできなくなります」と麻生氏に同調したという。

 だが、菅官房長官は違った。参院選に既に動き出している公明党の支持母体、創価学会側の事情を安倍に説明し、「(組織が分裂する)同日選では公明党はもたない」と言い張った。

 麻生氏は菅氏にこう言って睨み付けたという。

 「なんでいつも学会の味方ばかりするんだ」

 総理はそれまで「解散は理屈を超えてやるものだ」と周囲を煙に巻いていたらしいが、サミット直前に公明党の山口那津男代表から参院選のテコ入れを求められていたそうだから、菅氏同様公明党の事情に引きずられ、創価学会が十分に動けないダブル選挙を断念したのかもしれない。

 『文春』によれば、麻生と菅の対立はこれまでもあったが、それが表面化せずにきたのは甘利明前経済再生相が2人の緩衝役になっていたからだという。だが、その甘利氏が『文春』のスキャンダルで辞任し、2人は抜き差しならない状態になったそうだ。

 ダブル選挙回避では菅氏の意見が通ったが、参院選で結果を残せなければ、菅氏が孤立しかねないという見方がある。

 『文春』によれば、麻生氏は安倍政権を支える、菅氏は安倍以後を見据えている。この2人の考えの違いが今後の安倍政権の行方を左右すると言われているそうである。確かなのは2人とも安倍政権が崩壊すれば一蓮托生、このような陽の当たる場所から放逐されることになる。

 ダブル選を見送った安倍総理は、次の機会を、臨時国会を召集して10兆円規模の補正予算を編成し、ロシアのプーチン大統領が12月に訪日すると言われているから、その後の「3度目の年末選挙」もありうると『文春』は読んでいるが、私にはそううまくいくとは思えない。

 千載一遇とも思えるダブル選を回避したのは、アベノミクスの先行きへの不安からか、安倍の病からくる「弱気」なのか、公表されていない不安要因(巷でいわれているほど自民党が大勝する目はないという予測)があるのではないか。

 どちらにしても参院選は、ウソと欺瞞で政権運営をしてきた安倍政権を容認するのか、否定するのかを問われる選挙になることは間違いない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 サミット休戦していた山口組と神戸山口組だが、休み明けに神戸山口組系池田組幹部が射殺されたことで、神戸山口組が報復するのかが焦点になってきた。今週の『フライデー』は、天皇の執刀医が山口組の幹部と親しく、たいそうな贈り物を受け取っているのは如何なものかと報じている。東京五輪の招致のために賄賂を送っていたのではないかという疑惑の渦中にいる元電通専務を『現代』が直撃している。『文春』だけではなく、それぞれの週刊誌がタブーなんかぶち破れと動き出した。おもしろくなるぞ!

第1位 「スクープ「黒い巨塔」を追及する!  “天皇の執刀医”天野篤教授〈順天堂大学医学部附属順天堂医院院長〉 山口組大幹部から贈られた米300kg!」(『フライデー』6/17号)
第2位 「汚れた東京五輪 渦中の『電通キーマン』高橋治之元専務が核心を語った!」(『週刊現代』6/18号)
第3位 「独占スクープ! 長友佑都『平愛梨と極秘交際2年半でデキちゃった婚へ』」(『フライデー』6/17号)

 第3位。『フライデー』がサッカーの長友佑都(ゆうと)(29)がタレントの平愛梨(たいら・あいり)(31)と極秘交際していて「できちゃった婚」するとスクープしている。
 この話はスポーツ各紙で報じられたが、『フライデー』が出る前に長友側が流したのであろう。
 『フライデー』によれば、長友と平との付き合いは既に2年半にも及ぶそうだ。日本とイタリア・ミラノの遠距離を乗り越えて、超極秘に愛を温めてきたそうだ。

 「2人の交際が始まったのは'14年の年明けから。芸能人が多く集まる食事会で出会い、お互いカラオケが好きということで意気投合。“カラオケ友だち”として遊ぶようになり、そのまま交際に発展しました」(平の知人)

 だが二人の結婚には障害があった。彼女の事務所をよく知る関係者がこう話す。

 「今年の春ごろ、事務所に『長友さんと結婚して芸能界を引退したい』と申し出たそうなんです。ただ、社長からは『今年1年待て。いろいろ仕事も入っているからそれをやり切って、年明けにきちんと発表するのでいいじゃないか』と言われたと。でも本人はすぐにでも結婚したくて、ずっと悩んでいて……」

 それを急変させる事態が起こった。平が妊娠したのだ。事務所の社長は、妊娠という最終手段に訴えた平に激怒したという。この時点で『フライデー』は、彼女は事務所の反対を押しきって長友とゴールを決めるのか? と書いている(編集部注:6/3のブログで平は妊娠を否定)。
 『フライデー』の記事が2人の決断を後押ししたことは間違いない。おめでとう!

 第2位。『現代』が東京五輪招致の日本側のキーマンだといわれている元電通専務で五輪組織委員会理事を務める高橋治之氏(72)を直撃している。
 今回、五輪招致委員会がコンサルタント会社へ渡したカネが賄賂に当たるかどうかを証明するのは時間がかかるようだが、大手通信社のフランス支局員が「しかしフランス当局が、何らかの確証を持っているのは間違いない」とコメントしているそうだから、さらに火の手が広がることは間違いないようである。
 高橋氏のインタビューは、当然ながら不正はない、自分は関係ないの一点張りだから、紹介するまでもないのだが、一部分だけ引用しておこう。

 「こういうことは必ずあるんですよ。どこの国で開催したときも、毎回あるの。どこでもある。それをいちいち気にしてたらオリンピックなんて呼べないし、できない。(中略)いわゆるロビー活動というのは、どこでも認められていることだし、どこでもやっていることなんです。そういうことに関して日本は、マスコミをはじめとして、遅れているんじゃないのかな。そんなことは常識的なことじゃないの?」

 どこでもやっていることだから自分もした。それがなぜ悪い。おいおい、東京オリンピックで大儲けを企んでいるのは電通だろうが。自社の利益のために、カネを配り日本に呼んできたと素直に言えばいいのだ。

 「国民の80%以上は東京にオリンピックが来ることに賛同している」だって? 少なくともオレは賛同なんかしていない。汚れちまった五輪なんぞ、とっとと返上してしまえ。

 第1位。今週の第1位は『フライデー』。天皇の執刀医・順天堂大学医学部の天野篤(あつし)教授(60)が山口組大幹部と付き合いがあり、高価な贈り物をもらっていた、中には米300kgもあったと報じている。

 「4月6日午前10時──順天堂大学医学部附属順天堂医院の“裏口”付近に、黒いワンボックスカーが停まった。(中略)
 しばらくすると裏口から二人の男に護衛されるようにして、中折れ帽姿の初老の男性が出てきた。
 初老の男性を後部座席に乗せるとワンボックスカーは発車。(中略)初老の男性は新幹線で神戸へ向かった」(『フライデー』)

 この初老の男性は山本國春(66)で、建國会会長で四代目山健組では若頭を務めた山口組の大幹部であるという(14年に引退を宣言)。
 この人物は、07年5月にJR三ノ宮駅(神戸市)近くで四代目山健組系多三郎一家・後藤一男総長がメッタ刺しにされる事件が発生し、その指示を出したとして組織犯罪処罰法違反(組織的殺人)容疑で逮捕されたのである。
 15年6月に懲役20年が確定したが、それからすでに1年近くが経過しているのに、収監されずに、なぜ順天堂医院にいたのか? 『フライデー』によると、山本元若頭は重病人で「収監は望ましくない」と書かれた「診断書」が存在するため、当局は二の足を踏んでいるというのだ。
 しかもその「診断書」を書いたのが、12年2月に天皇陛下の冠動脈バイパス手術を成功させた天野篤教授だというのだ。
 医者は患者なら誰でも診るのは当たり前ではあるが、山本元若頭と天野教授には接点があるというのだ。医療関係者がこう話している。

 「三浪して日大医学部に入った時点で、天野さんは非エリートとして民間病院で腕を磨くことに活路を見出した。手術件数をこなすうち、暴力団員の患者と知り合い、『腕がいいから』と別の暴力団員を紹介された。そんななか、山本氏とつながったと聞いています」

 「診断書」には、感染症のリスクが高いので他人が使ったタオルを触るのは危険。生水を口にしてはいけない。人混みも避けるべき。トイレで踏ん張っただけで死ぬリスクがある。概ねそんなことが書かれていたという。
 だが『フライデー』が目撃した山本元若頭は「診断書」に書かれているような重病人には見えなかったそうだ。さらに取材を進めると、

 「ここ一年の間に山本氏から天野さんのもとに高額な贈り物が届いているのです。マスクメロンが大量に配送されたり、1本1万円近くする高級ワインが配達されてきたり。神戸牛一頭セットがプレゼントされたときは、心底驚きましたね」(医療関係者)

 さらに今年2月1日、山本元若頭から魚沼産のブランド米300kg──実に10箱もの段ボールの山が、順天堂医院の天野氏に届けられていたというのだ。
 郷原信郎弁護士は「暴力団からの贈答とわかっていたなら、断固拒否すべきでしょう。わかっていて飲んだり食べたりしているなら、コンプライアンス意識や規範意識が麻痺しているとしか思えません」と批判している。
 拒絶するどころか天野氏は贈答品を医局員とシェアしていたというのだから、医者のモラルとしてはいかがなものかと思わせる記事である。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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