「なす」という呼び名は、「夏に味がよい」という意味の「夏味」が「なすび」へと転訛し、それが「なす」に略されたという(ほかの説もある)。日本でもっとも古くから栽培されている野菜の一つで、在来種を合わせると、200あまりの種類があるそうだ。

 京野菜の王様である「賀茂なす」は在来種であり、丸なすの一種である。そもそもは「大芹川(おおせりがわ)」という品種で、これをもとに、水と液肥を大量に用いる栽培方法により、上賀茂や西賀茂などの洛北地域でつくられたものを「賀茂なす」と呼ぶ。異なる産地の「丸なす」を、「加茂なす」や「鴨なす」などと称し売っているのを見かけるが、「賀茂なす」の栽培は「水喰いの肥料喰い」と揶揄されるぐらい独特の方法であり、「賀茂なす」という銘柄以外は、味や肉質の異なるものと思った方が賢明だろう。「なす」には、火を通すと甘みが強まってとろみを増す特性があり、一つで300グラムほどに成長する大きく重い「賀茂なす」は、その味わいを十分に堪能できるようにつくられているのだ。

 「賀茂なす」は、肉質が緻密で瑞々しく、甘さが濃い。炊いてもよいが、やはり田楽にするのに向いている。まず、へたを落として輪切りにし、金串をうったら、油を十分に塗ってこんがりと焼き上げる。よく油が「しゅむ」ようにするのがコツ。中まで火が通ったら、片面に甘味噌を塗る。甘味噌が赤味噌のときは「ケシ」か「白ごま」、白味噌のときには「黒ごま」を振りかける。焼き立てを「ふーふー」しながら食べれば、夏バテなどどこかに飛んでいってしまうはずだ。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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