オードリー・ヘップバーン主演の名作『ティファニーで朝食を』。日系アメリカ人「ミスター・ユニオシ」なる珍妙なキャラクターが登場するが、演じるのはニューヨーク生まれの俳優、ミッキー・ルーニーだ。完全にコントのようなメイクによるメガネに出っ歯といった、この時代の典型的日本人像で描かれている。1961年の公開当時はまだ、映画における人種の表現というものがセンシティブではなかった。

 一般には、日本人はこうした問題に鷹揚だといわれる。『ドラゴンボール』がハリウッドで映画化されても、そのザツな改変にはガッカリするものの、アジア系であるところの孫悟空を白人が演じることに関して「まあガイコクの作品だから」と、さほど不満の声が上がらない。だが、当のアメリカでは、近年この問題がよく語られるようになっているらしい。「原作はアジア人なのに、それを映画化の際に白人が演じる」、これが「ホワイトウォッシング」と呼ばれるものである。

 クールジャパンを代表するコンテンツ『攻殻(こうかく)機動隊』(士郎正宗のコミック)の映画化がアメリカで進んでいるが、ヒロイン・草薙素子(正確には「草薙素子に当たる役」で、役名が日本人名になるとは限らない)に扮するのは、人気女優のスカーレット・ヨハンソンだ。現地の熱心な「オタク」たちのあいだでは、少なからぬ不満の声が上がっており、改めてホワイトウォッシングに関する論議が活発化している。

 映画会社のトップたちは、「集客が望める、予算の確保ができる俳優は白人ばかりで、アジア系にそれだけのビッグネームがいない」というロジックを語る。一方、アジア系の俳優たちは、「自分たちがチャンスをつかむ機会を減らしている」と主張することになる。人種の問題は難しい。ハリウッド映画をシンプルに楽しんでいるだけのわれわれ日本人も、少しだけ鈍感な気質を自覚していいのだろう。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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