京都市内には明治から大正、昭和にかけて建てられた、モダンな洋風住宅が数多く散在している。例えば、白川疎水の散策道の一角に静かに佇む「駒井家住宅」(左京区)。京都大学名誉教授・駒井卓(こまい・たく)博士(1886~1972)の私邸として、ヴォーリズ建築事務所の設計により1927(昭和2)年に建てられた。W.M.ヴォーリズが円熟期に手がけた代表作である。また、熊倉吉太良(くまくら・きちたろう、熊倉工務店)が手がけた民芸調の和風と洋風を折衷した独特のデザインの住宅をはじめ、戦前の京都で建てられた洋風住宅の多くは、東京や大阪のものとも異なり、独創的で見応えのあるものが多い。

 このような京都独自の洋風住宅を楽しむ上で、とりわけ大事な人物がいる。和と洋の特徴を調和させた「京都風」西洋館や洋風住宅の先駆けとなった建築家、武田五一(1872-1938)である。武田は明治期において、国内唯一の建築に関する官立大学教育機関であった東京帝国大学造家学科の出身。1903(明治36)年に京都工芸繊維大学の前身である京都高等工芸学校の教授として京都を訪れた後、1920(大正9)年に京都帝国大学に作られた建築学科で初代教授に就任している。その後、関西一円で仕事を続けた武田は、非常に多くの建築物を手がけ、京都には現存しているものが多い。なかでも、旧毎日新聞社京都支社の1928ビル(1928年建造)や、旧松風嘉定(しょうふう・かじょう)邸洋館の順正・清水店(1914年建造、現在はカフェ五龍閣)などが有名である。

 武田は貪欲に新しいデザイン要素を混在させた作風を、終生をかけて追求していった。そして、その作品にはいつも「和」の要素が感じられた。武田が京都風近代建築の先駆けと呼ばれてきた理由は、やはり、日本の伝統的な建築の蓄積の中に新しい試みを模索し続けたからなのだろう。ちなみに、NHK朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」(2013年下半期放映)に登場し、独創的な発想を大声で主張し続けた人物『竹元教授』のモデルは、この武田である。

 一部ではあるが、武田五一の建築の足跡を、写真で垣間見て欲しい。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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