1月17日、「ハーボニー配合錠」というC型肝炎治療薬の偽造品が見つかったことを、厚生労働省が発表した。

 ハーボニー配合錠(成分名:レジパスビル アセトン付加物/ソホスブビル)は、C型肝炎ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬だ。副作用がほとんどなく、100%に近い確率で治癒することが期待されている画期的新薬で、2015年8月に国の薬価収載時には大きな話題を呼んだ。

 話題になったのは、その効果だけではない。収載直後の薬価は1錠あたり8万171.3円で、高額薬の登場としても注目を浴びたのだ。その後、薬価は改定され、現在は1錠あたり5万4796.9円まで引き下げられたが、まだまだ高額であることに変わりはない。

 ハーボニー配合錠は、1日1回12週間、継続して服用することで効果を示すもので、1クールの薬剤費だけで500万円近くなる。ただし、公費助成の対象なので、患者の自己負担は原則的に月1万~2万円だ。

 今回、このハーボニー配合錠の偽造品が、奈良県の調剤薬局チェーンと東京都の卸売販売業者から見つかり、医薬品業界に動揺が走っている。

 ハーボニー配合錠の正規品はだいだい色をした菱形の錠剤で、白い樹脂製の薬品ボトル1本につき28錠入っている。また、薬剤には必ず、薬の効能や服用方法、副作用、禁忌などが記載された添付文書がつけられている。

 ところが、今回、厚生労働省が問題の偽造品を分析した結果、ボトルの中身は市販されているビタミン剤や漢方薬、別のC型肝炎治療薬のソバルディだったり、本物のハーボニー配合錠とその他の錠剤が混在していたりするものもあった。錠剤の入った薬剤ボトルは正規品なので、何者かが中身を入れ替えたものと推測されており、添付文書もついていなかった。

 偽造品の納入ルートは、製薬メーカーが指定した正規の医薬品卸売業者ではなく、いわゆる「現金問屋」と呼ばれる業者だ。

 通常、医薬品は製薬メーカーから医薬品卸売業者を介して調剤薬局や医療機関に納入されるが、購入したものの在庫がダブついている医薬品を、薬局などが現金問屋に持ち込むこともある。

 そうした現金問屋では、公定価格よりも安く買い取って、別の卸売業者に転売することで利ざやをもうけている。

 1錠あたり5万4796.9円するハーボニー配合錠は、1ボトル(28錠)あたり約153万円するが、現金問屋での買い取り価格はこれを大幅に下回っていたようだ。

 そうした非正規ルートで仕入れれば、薬局も医薬品を安く購入できる。その一方で、患者や健康保険組合には国が決めた薬価で請求できるので、ここでどれだけ薬価差益を取れるかが、薬局の経営にも影響を与えている。今回のC型肝炎偽造薬の問題が起こった背景には、こうした医薬品の納入ルートがあることも原因のひとつといえるだろう。

 医薬品研究の進歩によって、ハーボニー配合錠のように、これまでとは桁違いの高額薬が次々と登場しており、今後、類似の問題が起こらないとも限らない。

 今回は、幸いにも健康被害を訴えた患者は出ていないが、患者が偽造薬と気づかずに服用してしまったら、せっかく始めた治療にも影響を及ぼす可能性もあった。今回の問題を受けて、発売元の医薬品メーカーのキリアド・サイエンズはボトル包装をやめて、錠剤をプラスチックとアルミで挟むPTP包装に変更する予定だ。

 また、添付文書のない医薬品の取り引きは、医薬品医療機器法違反にあたる可能性があるため、行政処分する方針が打ち出されている。関わった調剤薬局チェーンや卸売業者は、二度とこのようなずさんな問題が起こらないように体制を整えるべきだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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