生徒が練習で長時間拘束され、勉強のための時間や心の余裕を失う「ブラック部活」の問題。「自分の若い頃にはこれくらい普通だった」という意見がよく出るのだが、科学的な理論にもとづくスポーツの指導は日々進化している。シンプルに「勝利をめざすため」「達成感を得るため」なら、精神論ばかりでなく効率も考えられるべきだろう。

 ブラック部活は生徒だけでなく、顧問の教員にとってもブラックなものだ。とにかく休み返上で働くのが偉い!という価値観は、過去にはそれなりに美徳として認められていたものの、いまや時代にそぐわないようだ。すると、いままで「アリ」であっても「ナシ」となる。夫である教員が部活動の顧問として忙しく、そのしわ寄せを受けて妻が孤独に苦しむ「部活未亡人」なる言葉。教育現場では昔から語られてきたが、最近とみに注目が集まっている。

 特に教員になりたての若手は、ベテランよりも授業に不慣れで、家に持ち帰る雑務も多くなる。加えて野球部などの「重い」部活を担当してしまうと、手を抜かない限り、家に帰る頃にはもうヘトヘトだ。自然と家庭でも会話が少なくなる。生徒たちと向き合う夫を、妻が支えている……という構図は美しいようだが、子育て真っ最中の頃とバッティングすると悲劇的。夫に落ち着いて悩みを相談する時間もとれない。きつい時期なのに放っておかれるとは。

 思いおこせば、昔からどの学校にも部活に熱心な先生がいたものだ。だが、なかなかその多忙さ、ましてや奥さんのことまでおもんぱかることはなかった。いま、生徒・教員の両面から適切な部活の在り方が問われている。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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