諸外国に例をみないスピードで高齢化が進む日本。2013年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子どもの平均数)は1.43で、やや回復の兆しをみせるが、人口はすでに2006年をピークに減少に転じている。出生率の低下に歯止めをかけ、社会の支え手を増やすために、少子化対策は喫緊の課題だ。その一環として、この4月にスタートしたのが「子ども・子育て支援新制度」(参考:「すくすくジャパン!」)だ。

 2012年8月に民主党政権下で、自民・公明両党を含めた3党合意で可決した「子ども・子育て関連三法」に基づくもので、子育てをめぐる問題を解決し、「子どもを産み、育てやすい社会」を作ることを目指している。

 国が掲げる制度のポイントは次の3つ。

1.質の高い幼児期の学校教育・保育を総合的に提供
2.待機児童解消のために、保育の受け入れ人数の拡大
3.子育て相談や一時預かり、放課後児童クラブなど、地域の子ども・子育て支援の充実

 2014年4月1日現在の待機児童数は全国で2万1371人。だが、潜在的な待機児童数は85万人(厚生労働省推計)ともいわれており、保育の量の確保は待ったなしだ。そのため、新制度では、当面、消費税の増収分から7000億円をあてて、待機児童の解消のほか、一時預かりや病児保育など地域での多様な子育てニーズにも、国が財政支援を行なうことになっている。

 それに伴い、幼稚園や保育所などの施設を利用する方法も大きく変わり、保護者の就労状況、子どもの年齢などに応じて、子どもを3つの認定区分に分類。居住地の市区町村が、その子どもに必要な保育や教育の時間を認定して、給付をするといった形になる。

 新制度は、待機児童の解消に一役買うと期待する声もあるが、問題も多くはらんでいる。

 新制度はこれまで管轄外だった多様な施設や事業を制度化することで、保育の「量」の確保を打ち出しているが、市町村が責任をもって保育を行なう認可保育所を増やすことを約束しているわけではない。

 施設ごとに、それぞれ異なる基準や条件が設定されており、あらたに導入される小規模保育事業などは、保育士の数や施設の設備などの基準が低く、保育の「質」には格差が生まれそうなのだ。また、認可保育所と違って、その他の施設は市区町村の責任が曖昧で、事故が起きたときなどの補償にも差が出そうだ。

 結局、保育の「量」は増えても、「質」には大きな開きがあるため、よりよい保育環境を求めて、これまでと変わらぬ「保活」が繰り広げられることになりそうだ。

 そもそも、保育・幼児教育における家庭支出は、OECD平均が19%なのに対して、日本はそれを大幅に上回る55%。家計の負担が重く、国による公的支出は先進国のなかで最低レベルとなっている(「OECD図表でみる教育2014年版」より)。

 本当に「子どもを産み、育てやすい社会」にするためには、保育・子育て分野にもっともっと大胆な公的投資が必要ではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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