第1回 自然の形(1)
日・月・雨・水・川
これから学ぶ漢字は、自然の中から生まれたものです。
その多くは、自然の姿・形を写し取っています。このような文字を象形文字といいます。文字が生まれたころの自然は、今よりもっと荒々しく、もっと神秘的でした。古代の人は、その大きな自然をどのようにとらえ、どのように表現したのでしょうか。
説明太陽はまるい形で表しますが、中がからっぽのまるい輪でなくて、内容があることを示すために、中に小さな点を加えています。
用例「日光」(太陽のひかり)・「休日」(授業・仕事などの休みの日)。
解説太陽は、満ち欠けする月と違って満ち欠けがありません。それで円形のものとして「
」と表します。月は満ち欠けがあるので三日月の形「
」で表し、太陽と月は対照的に表現されてます。日や月の中にある点(線)は空洞でないことを示すために点を加えたものです。
『月』
4画〔
〕4画(ゲツ・ガツ・つき)小学1年
説明月はみちかけするものですが、まるい形の日(太陽)と区別するために三日月の形にしています。
用例「月光」(つきの光)・「満月」(かけることなく、まんまるに輝いているつき)・「正月」(一年の第一番目の月)。
解説夕(ゆうべ)は月が傾いた形ですが、甲骨文字の字形(
)は、月と区別するために、中に小さな点を加えています。
いまの字は夕は点が一つ、月には点二つを加えて区別しています。
肉の状態・性質、体の部分・状態を表す部首のにくづき(肉)は肉を省略した形の月(にくづき)の形となり、月(げつ)と同じ形になっていますが、もとは別の字です。月(にくづき)には、肝(きも)・胃・肥(こえる)・肺・胸(むね)・脂(あぶら)・胴・脚(あし)・腹(はら)などの字があります。
説明空から雨の降る形で、「あめ、あめふる」の意味に使います。
用例「雨季」(とくにあめの多く降る季節)・「降雨」(あめが降ること)。
解説雨雲(黒い雲)から雨の落ちるようすを表した形で、その全体で「降雨」を表す象形文字です。雨は漢字を構成するときは、上に位置し、
(あめかんむり)となって、雲・雪・霜・霧・露・霞・靄・霰・雹など天体現象を表す字をつくります。
説明まん中に大きな流れがあり、左右に小さな流れがあります。大きな流れが三すじになって流れているのは川の字ですから、水は小さい流れを表し、「みず」の意味に使います。
漢字の偏(さんずいへん)に使うときには、
のように横にして三つの点で表します。
用例「水陸」(みずと陸)・「海水」(海の塩辛いみず)。
解説田地に用いるために溜めた水をあらわす字は留で、「とどまる、とめる、とまる、たまる」という意味に使います。水の横に小さな氷のかたまり二つを加えた字(
)が冰(こおり)の字です。右の二つの点は氷の塊です。小さい流れは凍りやすいのです。
説明三すじになって流れている水で、大きな流れを表し、「かわ」の意味となります。まん中の流れが切れて三つの点になっている形は、大きな水の流れの中に勢いよく流れている水の形です。
用例「河川」(大小のかわをまとめていう言い方)・「小川」(小さいかわ)。
解説大量の雨水は地形の柔らかなところを浸食しながら流れるので、蛇行しながら流れます。これが川の姿です。三すじの流れと一とを組み合わせた形が
(巛。甲骨文字は
)で、水が横に流れている形です。川の水があふれて家や田畑を水びたしにして、水害をおこしていることを表している字で、水災・水害の意味です。巛と火とを組み合わせた形の災(わざわい・災害)は水災と火災を含めたすべての「わざわい」の意味に使います。日本語の仮名の「つ」「ツ」は川の草書体から出来た字です。
黄河の河は音符が可で、可は流れる水のはげしい音を写した語でしょう。長江(揚子江ともいう)の江は音符が工の字です。工には左右にひろがり、ゆるやかにまがるという意味があり、江は川幅が広く、ゆったり流れている川をいうのでしょう。
● 日本文字文化機構文字文化研究所 認定教本より
ここで紹介している日本文字文化機構文字文化研究所編集の教本は、最高峰の漢字辞典『字通』に結実した白川静文字研究の成果をもとに、漢字の成り立ちをわかりやすく解説した学習コラムです。白川静『字通』のオンライン検索サービスは、基本検索ならびに詳細(個別)検索でご利用いただけます。
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