説明「五」は木を組み合わせつくった器の二重の蓋です。口(こう)は口(くち)ではなく、もとの形は
(さい)で祝詞(のりと:神への祈りの文)を入れる器の形です。この器の上に五をのせて蓋をし、祈りの効果を守る意味の字が吾(ご)です。
神への祈りの文が入っている器の
の上に鉞(まさかり。士の形)をおいた字が吉(きち)で、十(四角の形の干(たて)を省略した形)をおいた字が古です。吾・吉・古はみな祈りの効果を守るという意味をもつ字です。
吾はもとは「まもる」という意味の字ですが、この意味とは関係なく、「われ」という意味の一人称代名詞の漢字のひとつとして使われるようになりました。「われ」という意味の漢字がなかったので、別の意味をもつ吾・我(のこぎりの刃の形です)・余(把手のついた手術刀の形です)などの字の音を借りて使ったのです。
用例「吾児」(ごじ:わが子)・「吾輩」(わがはい:われわれ。われ)。
解説代名詞に用いる吾も、もと大きな二重の蓋で
を蓋(おお)う形であり、
(まも)るという意味をもつ字でした。祝詞の器が守られることは、その祈りの効果を発揮することにほかなりません。このような祈りの効果を破る方法も、その器に鋭い刃器(じんき)などを加えるという象徴的なしかたで行われました。例えば舎(
)・害(
)の上部は、いずれも長い針であり、舎・害は大きな針で器を突き通す形です。そのような方法で祈りの効果をなくすことができると考えたのです。
(会意)把手(とって)のついた大きな針と口(こう)とを組み合わせた形。
説明字の上半分は把手のついた大きな針の形で、針先を下に向けています。口(こう)は口(くち)ではなく、もとの形は
で、祝詞を入れる器の形です。
は大きな針で
を突き刺し、祈りの効果を傷つけて、願いごとが実現するのを邪魔している形の字です。それで害には「きずつける、じゃまする、そこなう」という意味があり、そこなわれることによって「わざわい」が生まれるのです。今の常用漢字の害の形は、もとの字の
のように針の先が口(
)まで届いていませんから、
を傷つけて祈りの効果をなくすことができません。
用例「損害」(物がなくなったり、傷ついたりして損をすること)・「被害」(損害をうけること)。
解説旧字の字形では、上部の針の先は
にまで達しています。達することによって、害することが出来たのです。今の常用漢字はその針先を折り棄てています。これではその祈りの効果を害することは不可能であり、そこなうという意味は出てきません。害という中国の字書にみえない不思議な字形を創出しています。
(会意)把手(とって)のついた大きな針と口(こう)とを組み合わせた形。
説明口(こう)のもとの形は
で、神への祈り文を入れる器の形です。害と同じように、大きな針を上から
に突き刺して、祈りの働きを傷つけ、その効果をすてさせるという意味の字です。
「すてる」というのがもとの意味で、捨(
)のもとの形です。のちに、「建物(たてもの)」という意味にも使われるようになりました。常用漢字のように舎の形に変えられては、害の字と同じように、
を傷つけることができなくなっています。害の説明も見てください。
用例「校舎」(学校の建物)・「宿舎」(旅先などで泊まる所)。
解説「害」の解説をご参照ください。