第15回 人の形から生まれた文字〔3〕
体の部分~顔を中心に(1)
目・眉・自
体の部分から生まれた文字は私たちにとって身近なもので、その大部分は象形文字です。その中でも「目」「耳」「鼻」などは、五感を表す感覚器官で、それぞれ「見る」「聞く」などの行為を表します。古代の人にとってそれらの行為は、今の私たちの日常的な行為と違って、神秘的な意味合いを持っていました。
とくに「手」は、上下左右の手の使い方によって、形や意味も変化することが多くあります。古代の人はそこにどんな意味をこめたのでしょうか。
説明目は今は縦長に書きますが、古くは横長の形に書きました。目をはたらかせて、目撃(もくげき:じっさいにはっきり目で見ること)・目送(もくそう:目で人のあとを追うこと)のように使います。また眉と目は顔の中で最もめだつところですから、標目(ひょうもく:目印)・要目(ようもく:大切な項目)のように使います。
用例「目前」(めの前)・「目的」(実現しようとしてめざすことがら)・「面目」(めんぼく:人にあわせる顔)。
解説目の瞳をはっきり表した形が臣(
)で、横長の目の形を字の要素としているのが徳・省などです。
眼(まなこ、め、みる)は、形声(けいせい)の字であり、呪力(のろいをかける力)のある目をいいます。まなこは目の中心部で、眼力(がんりき)のみなもとです。
説明古代の人は目の呪力(まじないの力)を強めるために、目の上に眉飾りをつけました。金文の字は目の上にその眉飾りをつけている形で、巫女(みこ:神に仕えて神のお告げを伝える女)などが目の呪力を使って祈り、まじないをする時につけたものと思われます。日本では絵の具で書いたり、入れ墨をしたりしました。
用例「眉目」(びもく:まゆと目)・「画眉」(がび:まゆずみでまゆをかくこと)。
解説目の呪力を強めるために、目の上に眉飾りをつけます。今の人もまぶたなどに睫毛(つけまつげ)をしますが、昔は巫女などが呪的な行為をするときなど、重要な時に眉飾りをつけます。わが国では絵の具でかきつけたり文身(一時的に描く入れ墨)をしました。目をえどることは、相手を迷わすひとつの方法でした。
説明自分をいうとき、自分の鼻を指さしたり、鼻を抑えるので、自に「おのれ・みずから」の意味があります。
用例「自分」(われ。おのれ)・「自己」(われ。おのれ)・「各自」(ひとりひとりの人全部)・「自然」(山・川・草木・動物など人が作らずに存在するもの)。
解説これは人間の鼻の形。自分を指すとき鼻先を抑えるので、自己の意味となり、自が自分の意味に使われるようになったので、自に音符の
(ひ)を加えた形声文字である鼻の字がつくられました。
● 日本文字文化機構文字文化研究所 認定教本より
ここで紹介している日本文字文化機構文字文化研究所編集の教本は、最高峰の漢字辞典『字通』に結実した白川静文字研究の成果をもとに、漢字の成り立ちをわかりやすく解説した学習コラムです。白川静『字通』のオンライン検索サービスは、基本検索ならびに詳細(個別)検索でご利用いただけます。
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