女の人の姿(2)
女・母・如・若・妾・婦・安・好
「女」という文字は、しとやかに跪(ひざまず)いた女の人の姿に作られています。「女」のつく文字は大変多く、それも形声文字が多くを占めます。「男」のつく文字よりはるかに多いのです。漢和辞典を見ても「女」の部首はありますが、「男」の部首はありません。これは、古代において、神のお告げを受ける人は女性であったり、女性がいなければ子孫が断絶してしまうというようなことで、漢字の成立過程で女性が大きな役割を占めているからでしょう。
今回は、象形や会意文字を中心に考えていきたいと思いますが、「女」を部首に持つ文字だけでなく、構成要素として「女」が含まれている文字もあります。
(象形)巫女(みこ:神に仕えて神のお告げを伝える女)が両手をあげて舞い、神を楽しませ、神に祈って神託(神のお告げ)を受けようとして、うっとりとした状態にあることを示す形。
説明祈りにたいして神が乗り移って、神意(神のこころ)は巫女に伝えられ、その神のお告げを巫女が人々に伝えます。その神意にしたがうことから、「若」には「したがう」という意味があり、また神のお告げを受けるのが若い巫女ですので、「わかい」という意味に使われます。旧字は「
」の形です。巫女のふりかざした両手が
(くさかんむりの
の意味ではありません)、両手をあげて身をくねらせて舞う姿です。のちに、神への祈り文を入れる器の
(さい)(口)を加えました。
用例「若年」(じゃくねん:年がわかいこと)・「若者」(わかもの:年のわかい人)・「老若」(ろうにゃく:年寄りと若い人)。
説明「辛(しん)」は刑罰として入れ墨するときに使う針。罪ある人にはこれで入れ墨をしました。額に入れ墨をされた女を「妾(しょう)」といい、男を「童(どう)」といいます。「妾」とは、もとは神を祀(まつ)るときに、生きたままお供えとして神に捧げられた女です。のちには人に仕える「召使い、めかけ」の意味に使われます。
用例「妾婦」(しょうふ:めかけ)・「妾侍」(しょうじ:召使いのおんな)。
説明「帚(ふ)」はほうきの形で、ほうきです。この「帚」は祖先の霊を祀(まつ)る所である宗廟(そうびょう)の中を清めるときに使いました。今のようにごみを掃く掃除の道具ではありません。この「帚」を持って宗廟を清めるという大切な役割をする女は、一家の中心の女の人でしたから、「婦」は「主婦、よめ、つま」の意味になりました。
用例「主婦」(一家の中心となる女)・「夫婦」(おっとと、つま)・「婦人」(女の人)。
解説「帚」はそれに鬯酒(ちょうしゅ:神に捧げる香り酒)をふりかけて宗廟や神殿などを祓(はら)い清める箒(ほうき)のようなものをいいます。婦とは、
(帚)をもって宗廟を清め、祖先の霊に奉仕する女性です。「婦」は掃除という家事をするつまらない女をいう意味ではなく、もとは祖先の霊を祀るという大事な役目をした女の人のことでした。