第12回 人の形から生まれた文字〔1〕
(会意)口(こう)と人(儿:じん)とを組み合わせた形。
説明口は
(さい)であり、神への祈りの文(祝詞:のりと)を入れる器です。兄(けい)はその
を頭の上にのせている人を横から見た形で、神を祀る人の意味となります。 兄弟のうちで家の神を祀る仕事を担当した人が長男でしたので、兄は「あに」の意味になります。
用例「兄弟」・「兄事」(けいじ:他人をあにのように思って仕えること)。
解説字の構造は、見(けん)や望(ぼう)の初形(しょけい)が目に従い、聞(ぶん)の初形が耳に従い、光の初形が火に従い、それぞれの下に人(人を横から見た形である儿(じん)の形)を加えるのと同じ造字法(ぞうじほう)です。
長兄は家の神事を担当する人、すなわち神に仕える神官となるべき人でした。甲骨文字・金文の字形に、袖に飾りをつけて舞い祈る意味を示す形の字、また跪(ひざまず)いて神を拝む形の字があって、兄は神事に従うものであったことが知られます。兄は家の祀りをする人で、これに神を祀るときに使う祭卓(お供え物を置く高い台)である示(じ)を加えた字が
(祝)で、もと「祝(いの)る」とよみ、また神官をいいます。
(象形)人の首の部分を大きな形で示し、その下に人を横から見た形(儿)を加えた形。
説明大きな首の人の形で、元(げん)はもとは「くび」の意味です。『説文解字』に「始めなり」とあり、「元始(はじめ)、もと」の意味もあります。また首は人間の身体の中でも重要な部分ですから、元には人の長、首領の意味や「おおきい」という意味もあります。
用例「元首」(げんしゅ:頭(かしら)。主君)・「元素」(げんそ:ものを作り出すもとになるもの)・「元日」(がんじつ:一年のはじめの日、一月一日)・「元祖」(がんそ:物事を最初にはじめた人)。
解説人の首の部分を「ここだよ」と示した形で人の首を表します。「首
」は、顔の上に髪の毛がついた形で首そのものを写した形であるのに対して、「元」は人間の身体の中の首の部分を大きく示した字形。
『見』
7画(ケン・ゲン・みる・みえる・みせる)小学1年
説明目の形を大きく書くのは、見ることの呪能(じゅのう:まじないの働き)を強調するためです。古い時代の中国では、見ることによって、その目のもっているまじないの働きで遠くものをにらみつけ、服従させるまじないがありました。
用例「見学」(けんがく:実際にみて、学ぶこと)・「下見」(したみ:あらかじめみておくこと)・「露見」(ろけん:隠していたことがあらわれること)。
解説大きな目が人の上部に書かれています。聞ならば耳、先ならば足(之(し))というように、人体の機能を示すその部分を、人の上に出して書き、その機能を強調するのが漢字の造字法の一つの特徴です。見という字は、目を大きく頭の上に出して書きます。見るというはたらきを強調するためです。
(会意)之(し)と人(儿:じん)とを組み合わせた形。
説明之(し)は足あとの形で、足の意味です。儿(じん)は人と同じで、人を横から見た形です。先は人の上に足あとの形(之)を書いて、足のはたらきの「歩いて行く」ということを強調して示している字です。他のものに先だって行くという意味から、「さきだつ、さき、まえ、まず」の意味になります。先に行く意味から、先祖(家のはじめの人)・先人(むかしの人)のようにいい、先は「むかし」の意味にも使います。
用例「先頭」(せんとう:いちばんさき)・「率先」(そっせん:他の人にさきだって物事をおこなうこと)。
解説人の上に足あとの形が書いてあります。先は前方へ進むという意味です。戦争などのとき、先遣隊(せんけんたい)を派遣することを先といいます。それで先とは先行(せんこう:他に先だって行く)の意味をもちます。
甲骨文には「羌人(きょうじん)をして先(さき)んぜしめんか」のように、危険の多いときには、異族の者を先行させて、道路の安全を確かめさせました。自分の集落を一歩はなれて外に出ると、そこはどんな邪霊や邪悪なものが住むところかわかりません。
そこに通ずる道へ出るときは(外征の途につく時など)いつも危険にさらされるので、そこで本隊の前に先行する者を行かせなければならなくなります。その任務をするのが「先(せん)」でした。
● 日本文字文化機構文字文化研究所 認定教本より
ここで紹介している日本文字文化機構文字文化研究所編集の教本は、最高峰の漢字辞典『字通』に結実した白川静文字研究の成果をもとに、漢字の成り立ちをわかりやすく解説した学習コラムです。白川静『字通』のオンライン検索サービスは、基本検索ならびに詳細(個別)検索でご利用いただけます。
コンテンツの概要については以下をご覧ください。
『字通』のコンテンツ案内はこちら