女の人の姿(3)
女・母・如・若・妾・婦・安・好
「女」という文字は、しとやかに跪(ひざまず)いた女の人の姿に作られています。「女」のつく文字は大変多く、それも形声文字が多くを占めます。「男」のつく文字よりはるかに多いのです。漢和辞典を見ても「女」の部首はありますが、「男」の部首はありません。これは、古代において、神のお告げを受ける人は女性であったり、女性がいなければ子孫が断絶してしまうというようなことで、漢字の成立過程で女性が大きな役割を占めているからでしょう。
今回は、象形や会意文字を中心に考えていきたいと思いますが、「女」を部首に持つ文字だけでなく、構成要素として「女」が含まれている文字もあります。
説明「宀(べん)」は祖先の霊を祀(まつ)っている廟(みたまや)の形です。女は新しく嫁(とつ)いできた新婦です。「安」は新婦が廟に座っている形です。新婦が廟にお参りをして清めをし、嫁いできたことを祖先の霊に報告し、嫁いできた家の霊を受けて、この家の人になる儀式をしていることを示しているのが安の字です。夫の家の祖先の霊を受ける儀礼をしたのちに、はじめてその家の人として認められ、祖先の霊に守られて、結婚した家の一人として、やすらかで平穏無事な生活ができるのです。
新婦の裾に小さく線をそえた字(金文の右の字)がありますが、この線は祖先の霊をよりつかせる(乗り移らせる)役割をする布(玉衣)で、新婦がすわる座布団ではありません。このような霊をよりつかせる布(玉衣)は、日本の神話の中でも使われています。清めのためのお酒を女にふりかけている字(甲骨文字の三字目の字)もあります。
安は、「やすらか、やすらかにする」というのがもとの意味で、値段が安いの「やすい」という意味は、国語の使い方です。
用例「安全」(あんぜん:やすらかで危険のないこと)・「不安」(ふあん:気がかりでおちつかないこと)・「安価」(あんか:ものの値段がやすいこと)。
解説今でも日本では嫁ぎ先の仏壇に真っ先に手を合わせて嫁いできたことを報告する風習が残っている地方がありますが、安の儀礼はそのようなものであったのでしょう。
説明甲骨文字には、女が子を抱く形の字がありますから、もとは母親が子どもを愛し、かわいがるという意味であったと思われます。のちに愛情の意味から、姿が「うつくしい、よい」などの意味に使われるようになり、さらにすべて状態が「よい」という意味に使われるようになったのでしょう。また、よい状態のものを「このむ」の意味にも使います。
用例「良好」(りょうこう:状態のよいこと)・「愛好」(あいこう:愛しこのむこと)。
解説もとの字は、婦人が子を抱く形とみてよいのではないでしょうか。要するに好とは、女性が子どもを愛し好むという意味であったと思われます。