親子で学ぼう!漢字の成り立ち 親子で学ぼう!漢字の成り立ち

第16回 人の形から生まれた文字〔3〕

体の部分~顔を中心に(2)

鼻・臭・耳・首・心

体の部分から生まれた文字は私たちにとって身近なもので、その大部分は象形文字です。その中でも「目」「耳」「鼻」などは、五感を表す感覚器官で、それぞれ「見る」「聞く」などの行為を表します。古代の人にとってそれらの行為は、今の私たちの日常的な行為と違って、神秘的な意味合いを持っていました。
とくに「手」は、上下左右の手の使い方によって、形や意味も変化することが多くあります。古代の人はそこにどんな意味をこめたのでしょうか。
『鼻』
14画〔〕14画(ビ・はな)
  • 篆文
(形声)旧字は鼻(び)に作り、音符は(ひ)。
説明鼻を正面から見た形は「自」ですが、「自」が自分の意味に使われるようになったので、「はな」の意味の字として、自に鼻息の音である(ひ)を音符としてつけ加えた(鼻)の字が作られました。
用例「耳鼻」(じび:みみと、はな)・「鼻血」(はなから出る血)。
解説「鼻息を伺う」とは人をおそれることです。鼻で洒(わら)うのを「鼻洒(びしん)」、嫌がって笑うのを「縮鼻笑(しゅくびしょう)」、また中国南方に「鼻飲(鼻で飲むこと)」の俗がありました(自の解説を参照)。日本語の「はな」は、顔面より高く出ているので、あらわれめだつものの意味があります。
『臭』
9画〔〕10画(シュウ・におい・におう・くさい)
  • 甲骨文字
  • 篆文
(会意)旧字は(しゅう)に作り、自(じ)と犬(けん)とを組み合わせた形。
説明自(じ)は鼻という意味をもつ字です。犬の鼻は動物の中で臭いをかぎわける嗅覚がとく特に鋭いものですから、犬と自とを組み合わせて犬の鼻を意味するの字に、「におい、におう、においをかぐ、くさい」という意味があります。いまの常用漢字の形は、犬を大に変えて臭の形になっていますが、臭は大きな自(鼻)という意味になってしまい、「におい、におう」という意味がなくなってしまいます。
用例「臭気」(しゅうき:くさいにおい)・「悪臭」(気持がわるくなるような、いやなにおい)。
解説犬の自(鼻)を示します。犬の形の含まれる字であるも、常用漢字では、犬を大に変えて、器・類としているので、その字の形から字の意味を理解することができなくなりました。
『耳』
6画(ジ・みみ)小学1年
  • 甲骨文字
  • 金文
  • 篆文
(象形)耳の形。
説明古代の人は、人びとの神への祈りにたいして、神は聞こえるか聞こえないかわからないほどの小さい音を立てて反応する、応えると考えました。神がやって来るのも、神の意思(こころ)も、神の出す小さい音によって示されますから、その音を耳で聞きとらなければなりません。音で示される神の声、神のお告げを聞くことができる人を聖・聖者といいます。聖の甲骨文字はで、つま先で立っている人(壬<じん>の形)のうえ上に大きな耳をのせて、聞くという耳のはたらきを強調した形です。古代の人は、耳には神の声を聞くという大切なはたらきがあると考えたのです。
用例「耳目」(じもく:みみと、め)・「早耳」(はやみみ:人よりも早く聞いて、知ること)。
解説「耳」は人の耳の形。「聴く」ことをつかさどります。耳は目と共に神霊(神)に近づくべき働きをする最も重要なもの、というように漢字の世界では考えられています。目や耳を使って「見る、聴く」ということは、神霊に接する最も重要な手段です。
『首』
9画(シュ・くび)小学2年
  • 金文
  • 篆文
(象形)頭の髪の毛のある首の形。
説明目で顔面を表現し、上に髪の毛をつけています。首は人間の体の中でもとくに大切な部分ですから、首を、中心になるような人やものという意味に使います。
用例「首長」(しゅちょう:団体の長)・「首領」(しゅりょう:かしら)・「首都」(しゅと:国の中央政府のある都市)・「首尾」(しゅび:あたまと尾。初めと終わり)・「首位」(しゅい:第一の地位)。
解説目で顔面を示し、上に長髪をつけている首の字をさかさまにすると県の形となり、縣首(あがたくび)の象(かたち)。県に系(紐)を加えて、縣繋(けんけい)、逆さまに吊るすの意味の字となります。
『心』
4画(シン・こころ)小学2年
  • 金文
  • 篆文
(象形)心臓の形。
説明心臓の形で、「こころ」の意味に使います。心臓は生命力の根源(こんげん)と考えられていましたが、甲骨文字にはまだ心の字がありません。甲骨文字のは、人を正面から見た形ですが、の胸のところに心臓の形のが加えられています。
は文という字の最初の形ですが、胸のところのは一時的に描く入れ墨(文身といいます)の模様の一つです。
用例「中心」(まんなか)・「心身」(こころと、からだ)・「心理」(こころのはたらき)。
解説これは心臓の象形(しょうけい)です。肉食の生活をする氏族は、このような内臓の知識を早くからもち、ことに心臓が生命力の根源であることを知っていました。それでそういう生命の力を与えるものとして、文身(入れ墨)の模様として心の形を用いたりします。
● 日本文字文化機構文字文化研究所 認定教本より

ここで紹介している日本文字文化機構文字文化研究所編集の教本は、最高峰の漢字辞典『字通』に結実した白川静文字研究の成果をもとに、漢字の成り立ちをわかりやすく解説した学習コラムです。白川静『字通』のオンライン検索サービスは、基本検索ならびに詳細(個別)検索でご利用いただけます。
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