(会意)中(ちゅう)と又(ゆう)とを組み合わせた形。
説明「中」は祝詞(のりと:神への祈りの文)を入れた器の
(さい)(口)を木に着(つ)けた形です。「又」は右手の形です。「史(し)」とはもと祈りの文を先に着けた木を右手に持ち、高く捧げて、神に祈る祀(まつ)りをいう字です。3千300年ほど前の殷(いん)王朝では、祖先の霊を祀るのにこの史という祀りをしていました。
山や川を祀るときには、殷王は祀りをする使いを地方に出しました。使者は史と同じように、
を着けた木を持って出かけて祀りをおこないました。この使者が持つ木は、史の祀りのときよりも大きな木を使い、上がYの形で、その下に布の吹き流しの飾りがついていました。使者の持つこの木を字の形にしたのが「使」と「事」の甲骨文字です(次の「使」と「事」のところを見てください)。
祀りをする殷王の使者を使(し)といいます。したがって使は、「つかい、つかいする、つかう」という意味に使われます。使者が遠くへ出かけて山や川でする国家的な祀りを事(じ)といいます。殷王の使者を迎えて、事という祀りをすることは、殷王に従う、つかえることになります。したがって事には「まつり、まつりごと、こと、つかえる」という意味があります。
甲骨文字が生まれた殷の時代の政治は、史の祀りによって殷王一族をまとめ、使者を派遣して事の祀りをする範囲を広げることによって、王の支配範囲を広げるというように、祀りを中心とする政治でした。史・使・事の甲骨文字を読むことによって、3千年以上も前の中国の政治のようすがわかるのです。
のちに祀りをおこなう仕事をする人を史といい、また祀りの記録や記録をする人を史というようになり、過去のできごとの記録である歴史というような使い方になっていきました。
用例「歴史」(人間社会の移り変わりのようす)・「史書」(歴史を書いた書物)。
解説中国でも、木の枝に祝詞をつけて神様の前に差し出す字があります。日本で言うならば、申し文を木にくくりつけて捧げました。それが歴史の史という字です。これは
(祝詞を入れる器)を木につけて高いところまでさし出して神様に捧げる、史という祀りの名前です。殷の王室の中の祀りを史といい、王室の外に出て行って祀りをする時には、この木をもっと長くして、場合によっては吹き流しをつけて、それを手にもちます。それが使者として行く祀りの使い、使(し)です。
説明今から3千年余り前の殷の時代に、王室の外に出かけて史(し)という祀(まつ)りをする王の使者を「使(し)」といいましたので、使には「つかい、つかいする」という意味があります。史・使・事の甲骨文字の形は基本的には同じ形です。今はちがった形になっていますし、意味も違って使います。史の説明を見てください。
用例「使者」(つかいをする人)・「使役(しえき)」(人をつかって仕事をさせること)・「駆使(くし)」(思い通りつかいこなすこと)。
解説「史」の解説をご参照ください。音符は史。史は事(じ)と同形の字で、もと同じ音です。
説明「使」の説明をご覧ください。
用例「師事」(先生としてつかえ教えをうけること)・「無事」(心配なできごとのないこと)。
解説祝詞を入れる器を捧げて王室の外に使いし、祭事を行うことを「事(じ)」といいます(史の解説も見てください)。
基本形は史と同じですが、木の枝の上部が枝となってY字形をなし、また上部に吹き流しをそえた形に作ります。吹き流しは地方に使いするときの旗につける呪飾(じゅしょく)です。事は使者として行う祭事の意味です。そのことはのち使と事とに分岐しますが、もとは一字で、史・使・事は一系列の字です。