堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

東叡山黒門前 忍川 三橋第五巻 十四冊 二十丁

いざ、上野の寛永寺へ

徳川将軍家の菩提寺・寛永寺前の道は、明暦の大火(1657年)以降に火除け地として拡張された広場=広小路になっていました。左下が不忍の池、そこから延びる川が忍川(しのぶがわ)です。大正時代初期には暗渠になりました。

画面中央にある大きな橋、それから左右の小さな橋をまとめて三橋(みはし)と言います。真ん中は将軍御成りにも使う公的な橋、左右は庶民の通行が許されていました。

忍川にかかる三橋。真ん中の御成橋は幅6間(10.8m)、左右の橋は幅2間 (3.6m)あったといいます。さすが寛永寺への出入り口、立派だ~!

この橋から先が東叡山寛永寺の広大な境内です。山号の“東叡山”というのは、“東の比叡山”という意味。徳川家康・秀忠・家光の三代のブレーンとして君臨した天台宗の僧・南光坊天海によって、江戸城の鬼門にあたる丑寅(北東)の方角に創建されました(ちなみに……天海は享年だけとってみても108歳説~135歳説まであるというミステリアスな人物。じつは明智光秀なんじゃないか?! なんて説まであります)。以来、徳川将軍家の庇護のもと、寺域は最大120万平方メートルまで拡張。祠堂32宇、子院36坊、伽藍7堂を擁する威容を誇る、江戸一番の大寺となりました。現存すれば文句なく世界遺産登録になったのではないでしょうか。1868年の上野戦争によってほとんどの建築物が焼失。明治に入ってから上野恩賜公園として整備されました。

三橋があったのは、現在中央通りと不忍通り交差点の辺り。現在では昔をしのぶよすがもありませんが、付近には三橋という屋号やビル名がちょくちょく目につきます。あんみつ屋さん“みはし”の本店とかね♡



巨大扇風機のようなものは何?

なにやら巨大な扇風機のようなものが……。さらに紐につながれたなにかが怪しくたなびいております……。これは、往年のバラエティ番組のバツゲームの定番、巨大扇風機で煽られる刑かなにかが行なわれているのかしら!? 初めてこのページを見たとき、真剣にそう思いました。当然、そんなわけもなく(笑)。

広小路はものすごく大きなスペース。そもそもは火除け地なので、なにかあったらすぐに立ち退けるような、簡単なつくりの露店や茶店が立ち並びました。

まず、扇風機のように見えるのは“傘見世”という傘を看板代わりの目印にしていた露店。小さな玩具などを扱う店が多かったようです。日本人には『枕草子』の時代から「なにもなにも、小さきものはみなうつくし」という感覚があるので、こうした露店でも小さな玩具が愛されたんでしょうね。享保の改革以降、大型の玩具は贅沢品として処罰の対象になっていたため、玩具は小さく精巧なものがよし、という風潮もあったようです。

また、怪しくたなびく物体は“烏凧(からすだこ)”。細い竹の先端に、いろいろな鳥の形をした凧を菅糸(すがいと)で結びつけ、風にたなびく様子を見せて売っていました。これはほかの場所ではあまり見かけない凧で、上野黒門前の名物だったんですって。

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

上野のいま①

撮影に訪れたのは土曜日の昼下がり。みはしには長い列ができていました。店に入ることをあきらめ、持ち帰り用の杏あんみつを買って家で食べました。餡は北海道十勝産、蜜は沖縄の黒砂糖を使用、寒天は伊豆諸島や静岡でとれた天草(てんぐさ)をブレンドしてつくっているんだとか。大きすぎず、甘すぎず、量も味もちょうどいい。みはしは今年で創業70年だそうです。

百貨店の松坂屋上野店、寄席の鈴本演芸場、そしてあんみつのみはし……上野公園と続く中央通り沿いには平成30年となったいまでも、昔から愛されている老舗がまだたくさん残っています。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1700冊以上(総額750万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る

会員ID、パスワードをお忘れの方

『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

吉原はスゴイ~江戸文化を育んだ魅惑の遊郭~

堀口茉純最新刊!

吉原はスゴイ
~江戸文化を育んだ魅惑の遊郭~

PHP新書
940円(税別)

目次

日本橋編

深川編

向島編

上野編

浅草編