堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

清水堂花見図第五巻 十四冊 三十六丁

清水堂からのぞむ、時の鐘

京都の清水寺を模して造られた清水堂。このあたりの風景は『江戸名所図会』が描かれたころとほとんど変わっていませんね!

桜の季節の清水堂(きよみずどう)からの眺めは、まさに花の雲の上にいるような風情。眼下に広がる夢のような景色にうっとりとします。


花の雲 鐘は上野か 浅草か(松尾芭蕉)


この句を詠んだ芭蕉が聞いたのは、まさにこの上野寛永寺の時の鐘だったと言われています。

図会の画面右端の方に見える鐘楼がそれ。付近の町々に時を告げる役割を持っていました。江戸における時の鐘の始まりについては諸説ありますが、一説によると徳川家康の江戸城入城以来、城内の鐘楼で明け六つ(午前6時ごろ)&暮れ六つ(午後6時ごろ)の鐘をついて、市民に時を知らせていたが、二代将軍秀忠の時に、城内で鐘を衝くのではあまりにもうるさい、ということで、江戸城では太鼓で時を知らせるようにし、町中の数か所に時の鐘を設置させるようになった、ということです。

第二次世界大戦中の金属供出で、江戸の「時の鐘」の多くは失われてしまいました。上野の時の鐘の音が現在も聞けるというのは、実はものすご~く貴重なことなんです!

現在も精養軒の横にある丘を上がったところにひっそりとたたずむ上野の時の鐘は、天明7(1787)年に鋳造された当時のもの。木が鬱蒼と茂ってわかりにくい場所にあるんですが、今でも朝と夕方の6時と正午には、昔ながらの音色を響かせています(環境庁「日本の音風景100選」の一つ)。



上野の花見は飲酒厳禁!

喧嘩だ喧嘩だ~! 若い奴風の男が、歌舞伎役者顔負けの大見得を切って、老人に絡んでいます。周りの花見客たちも心配そうに成り行きを見守っていますが、その中に千鳥足の男とそれを担いでうんざり顔の男二人づれがいるのを見つけました。明らかに酔っ払いです。じつはこれ、ルール違反なんですよ~。

上野の花見では鳴り物禁止、というルールは現在でも活きていて、マイクを使ったカラオケ大会などは行なえません。今年もたくさんの方が桜の下に集い、静かにお花見を楽しんでいました。

天海が寛永寺創立の時に、吉野山の桜を植樹して以来、桜の本数は徐々に増えていき、元禄の頃には貴賤を問わず、桜の木の下で酒食を共にし、どんちゃん騒ぎを楽しむ花見の名所になっていました。今のお花見の原風景と言えるかもしれません。

しかし四代将軍・家綱、五代・綱吉が亡くなって寛永寺の徳川将軍家霊廟に入るようになると、「さすがに将軍の眠る場所でどんちゃん騒ぎはいかんだろう」ということになり、寛永寺境内の花見は、飲酒禁止、鳴り物禁止とされ、暮れ六つまでの下山が義務づけられるようになります。こうして花見客の中心は女性になっていき、“上野の花見は高尚”なんて言われるようになるんですが……結局飲む人は飲んでいたってことでしょうか(笑)。

ま、花見にお酒はつきものなので、大目に見てあげましょう。

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

上野のいま④

井戸ばたの桜あぶなし酒の酔──清水堂のそばにある紅しだれ桜、秋色桜(しゅうしきざくら)。江戸時代の俳人、秋色女が13歳のときに詠んだ句にちなんで名前がつけられたのだそう。花見酒で酔っ払っている人が桜に浮かれて井戸に落ちはしないかと、はらはらしている少女の姿が思い浮かびます。この句がつくられたころはまだ花見酒は禁止されていなかったようですね。

さて、現在は9代目となった秋色桜。同じく、句の題材となった井戸とともに、観音堂の名所となっています。上野公園のソメイヨシノとはまた違うあでやかな花は、多くの観光客や花見客の心をとらえ、この日もたくさんの人が撮影に励んでいました。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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目次

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深川編

向島編

上野編

浅草編