堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

今戸焼第六巻 十七冊 九十二丁

今戸焼を見る小僧さんの後ろ姿

今戸焼の起源は戦国時代に滅亡した下総国千葉氏の家臣数人がこのあたりに土着して、生活用品となる土器類を作り始めたのが最初という説があります。江戸時代の始めごろにはすでにこのあたりの名物として知られていました。

向かって左の棚に並んでいるのが今戸焼。このあたりでは当時、火鉢や食器等、庶民の日用品を作るのに適した陶土がよくとれたそうです。くるくると回しながら器を作っている陶器匠の手仕事を、しゃがみこんで見物している小僧さん。ではちょっとこの彼に注目してみましょう。

細部にも決して手を抜かないリアルな描写! これが『江戸名所図会』の真骨頂です。

ウサギちゃんが背中に描いてあります。かわいい柄の着物ですね。じつはこれ、“背守り”という、おまじないです。「七つまでは神のうち」という言葉があるように、当時は数え七歳までの子どもたちの死亡率が非常に高かったんです。魂がまだこの世に定着していないからで、悪霊にとりつかれてしまうせいだ、という考え方があったんですね。白兎は、飛び跳ねて、離れていく子どもの魂を現世に引き寄せてくれるとされ、背守りによく使われるモチーフでした。さらに肩のあたりには縫い線が入っています。これは“肩揚げ”。子どもの成長に合わせて着丈が調節できます。一枚の着物を長く着るための工夫なんですね。たかが子どもの着物一枚ですが、それは、健やかな成長を願うお母さんの優しさにあふれた一枚、でもあるんです。

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

浅草のいま⑤

「今戸焼発祥之地」の碑を求め、今戸神社を訪ねました。いまは縁結びの神社として有名な今戸神社。境内に入るとまず目に入るのは、無数にかけられた丸い絵馬。円=縁、角がない=角が立たないということから、丸く円満に物事が収まるように、角をとった丸い絵馬になったそう。そして絵馬には、社殿にいる今戸焼でつくられた招き猫が描かれています。江戸時代につくられた今戸焼の土人形(今戸人形)の代表的モチーフの「丸〆猫(まるしめのねこ)」が招き猫の最も古いものとされていることから、今戸は招き猫発祥の地ともいわれているんです。

神社では10年ほど前に縁結び会を立ち上げていて、多くのカップルが誕生しているんだとか。社務所には平日の午前中というのに、縁結び会に登録しにきたのか、絵馬を書いているのか、7、8人の女子がつめかけていました。招き猫パワーでいいご縁があるといいですね。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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目次

日本橋編

深川編

向島編

上野編

浅草編