堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。毎月1日と15日の更新です。

金龍山浅草寺 其三第六巻 十六冊 四丁

二十軒茶屋に多く並んだ店とは?

仁王門(現・宝蔵門)、五重塔周辺をクローズアップ! 当時は三代将軍家光寄進の立派な伽藍が人々を魅了していました。残念ながら戦災で焼け、現在は鉄筋コンクリート造りで再建されています。

浅草寺の境内掃除役の代償として、参道両側にあった支院前に小屋掛けして商売をする権利を与えられたのが二十軒茶屋、つまり今の仲見世です。もともとが清掃業だったため、掃除道具の余り材で作ることができる手軽な小物を扱う店が多く、特に房楊枝(ふさようじ:柳、杉やクロモジ等の材木を使い、細く切り取った先端を金槌で潰して房状にし、口中を清掃する道具。いわゆる当時の歯ブラシ!)を売る“楊枝店(ようじだな)”が有名でした。

明和三美人の蔦屋お芳はこの二十軒茶屋の看板娘。気軽に会いに行ける庶民派アイドルとして人気を博し、浮世絵にも描かれました。

スッキリとした活きのよさに美学を求める江戸っ子たちは、異性に「口が臭い」といわれるのを何よりも恐れ、毎日ピッカピカに歯を磨き、舌苔(ぜったい)をこそげ、さわやか吐息を心がけました。また、お歯黒を付けるのにも房楊枝を使いました。お歯黒は現代の私たちからするとちょっと不思議な美意識ですが、黒は何にも染まらないことから「貞節」を意味し、既婚女性にとっては重要なお化粧だったといいます。そのうえ、虫歯を予防できるという実用的な面もあったようですよ。境内にはたくさんの楊枝店が並びました。水茶屋も兼ねていて、看板娘がお茶汲みをしましたから、こちら目当てのお客さんも多かったようです。



絵馬堂には動き出す絵馬があった!?

古代、祈願するのに寺社に生きた馬を奉納していました。だけど、そんなこと、なかなかできない。せめて気持ちだけでも……ということで絵に描いた馬を奉納するようになったのが、絵馬の始まり。江戸時代には馬だけではなく、奉納する人によってさまざまな画題がとられるようになり、絵馬鑑賞が寺社参詣の楽しみの一つになっていました。とりわけ浅草寺は、有名人が奉納する絵馬が見られることでたいへん人気があり、絵馬堂は、庶民にとっての美術館のような場所になっていたようです。よく見てみると、腰掛が置かれていますから、休憩所も兼ねていたのかもしれません。

当時の絵馬は畳一畳分くらいからさらに大型のものもあり、まさにキャンバスといった感じ。浅草寺の絵馬堂には谷文晁、鈴木其一(きいつ)、歌川国芳、そして『江戸名所図会』の挿絵を描いた長谷川雪旦など、江戸時代の超有名アーティストたちがこぞって献納し、人々の目を楽しませていました。

絵馬の中には600年以上前から浅草寺に伝わるものがあり、そこに描かれた馬が夜毎に額を抜け出し、境内の草を食べ田畑を荒らしていたので、左甚五郎(ひだりじんごろう、江戸前期の建築彫刻の名工)に依頼し、引き縄を書き添えたところ、これがおさまったという、いわくつきのものもあったそうです。

『江戸名所図会』の本文では、「引き縄は後で書き添えたものではない。絵をみれば明らかである」と書いてありますが、馬が額から抜け出すことに関しては「妄誕(もうたん)に似たりといへども、その証とするあり」と、数々の伝説を引き合いに出して肯定しています。今だったら迷信と片付けられそうなことでも、当時は霊験として受け入れられていたんですね。そういう江戸人の感性、なんだかいいなぁ。

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

浅草のいま②

雷門から宝蔵門へと続く南北の通り、仲見世。長さ約250メートルに雷おこしや粟餅などの和菓子店や、和雑貨などの土産物店など、東側に54店、西側に35店の店舗がズラリと並んでいます。維新後、浅草寺の境内は東京府の管轄となり、府は明治18(1885)年、それまであった店を取り払い、レンガ造りの新店舗としました。関東大震災では壊滅し、2年後鉄筋コンクリート造りで復活。太平洋戦争では内部が焼失するも、商店街の人々の力によりすぐに復興したそうです。

さて昨年、仲見世の建物を浅草寺が東京都から買い取り(土地はもともと浅草寺が所有)、いままで10平方メートルあたり月1万5000円だった家賃を約16倍の25万円とすると要求しました。商店街側は反発しましたが、このほど、8年間かけて段階的に値上げすることで合意したそうです。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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目次

日本橋編

深川編

向島編

上野編

浅草編