堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

金龍山浅草寺 其四第六巻 十六冊 五丁

ベールに包まれたご本尊の姿

真ん中あたりにある橋は、都内最古の石橋(しゃっきょう)として現存しています。もともとは浅草寺境内にあった東照宮に参詣するために架けられたのですが、肝心の東照宮は江戸時代初期に消失してしまい、橋だけが残りました。

浅草寺の縁起(起源)は628年(推古天皇36年)にさかのぼります。漁師である檜前浜成(ひのくまのはまなり)・竹成(たけなり)兄弟が隅田川で投網漁をしていると、小さな観音様が網にかかり、土地の名士・土師真中知(はじのまなかち)に見せたところ、「これは尊い聖観音(しょうかんのん)菩薩像だ」と言ってお堂を建ててお祀りしました。この時、天から金鱗の龍が下りてきて三日三晩お堂をまわって聖観音様をお守りしたといいます。浅草寺の山号“金龍山”はこのお話に由来しているんですね。現在の本堂の天井画にも川端龍子氏による巨大な金龍の図が描かれています。注目してみてくださいね。

浅草寺本堂の大屋根はお江戸のランドマークの一つ! 急勾配かつ棟高(むねだか)で威風堂々としたたたずまいは圧巻です。

もちろん、この縁起には誇張や創作があって、正確な歴史であるとは言い難いようですが、それでもさまざまな発掘資料から、8世紀中盤にはこの場所に多くの人々が集まる寺院があったことが証明されています。1300年以上庶民の信仰を集め続けてきた浅草寺の御本尊、聖観音菩薩様、一体どんなお姿をしているのでしょうか……? 秘仏であるため、本堂の御宮殿(ごくうでん)に安置され、一般の目に触れることは一切なく、その存在は秘密のベールに包まれています。



奥山の楊弓場はどんな場所?

左側に何やら人だかりができていますね。ここはいわゆる奥山と呼ばれた場所。松井源水が歯磨き粉(また歯磨き用品!)を売るための客引きとして披露する曲独楽(きょくごま)が奥山名物で、代々この場所での営業が許されていました。十三代目はパリ万博でその芸を披露したそうですよ。

実は江戸時代の浅草寺の賑わいの中心はこの奥山。大道芸人や見世物小屋など各種エンターテイメントが集まる芸能のメッカでした。この賑わいが後に浅草六区の興業街に引き継がれ、現代にいたるというわけです。

奥山には源水のような大道芸人のほかに、軽食を売る屋台店、物売り、見世物小屋、手妻遣い(てづまづかい:手品師)等々、江戸庶民の娯楽が目白押し。なかでも人気があったのが楊弓場(ようきゅうば:矢場(やば)ともいう)でした。今でいう温泉場の射的のようなもので、座敷に座って片膝を立て、小さな弓矢で的を射って遊ぶんですが、これがなかなかどうして、かなりイカガワシイ場所だったようです。楊弓場に来る客の目当ては、接客をしてくれる“矢取り女(やとりめ)”ちゃん。彼女たちの接客は客と向かい合わせに座り、同じように片膝を立て白い太ももを惜しげもなく露わにし弓矢を渡してくれるという、かなりセクシーなものでした。お客さんから要望があれば、奥の座敷で春も売ったそうです。つまり、矢取りというのは口実で、じつは売春婦というわけですね。ヤバいという言葉の語源は、「矢場に居る女はイカガワシイぞ!」ということから由来しているという説もあるんですよ。

もちろん、まれに、真剣に的当て目的で楊弓場を訪れる硬派な輩もおりました。そういう方たちへの景品は……つま楊枝や、歯磨き粉だったそうです。どこまで江戸っ子は歯磨き用品が好きなんだ(笑)!

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

浅草のいま③

私が頻繁に浅草に訪れるようになったのは、2011年春。月イチで行なわれているほーりーの講演会「UKIYOEナイト」(二天門前のアミューズミュージアムで浮世絵の中に描かれた当時の文化、下町情緒や風俗などを解説)を聴きに行くためでした。当時は東日本大震災の直後で、浅草寺は閑古鳥が鳴いていました。

以降、月に一度は浅草を訪れていますが、円安などの影響、東京スカイツリーの完成や2020年東京オリンピック開催決定もあり、平日でもたくさんの観光客でにぎわうようになりました。ちなみに平成28(2016)年度、浅草寺のある台東区の年間観光客数は初めて5000万人を突破(外国人観光客は平成26年度に比べ57.8パーセント増の830万人)したそうです。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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目次

日本橋編

深川編

向島編

上野編

浅草編