堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

忍ばずの池 中島弁財天社第五巻 十四冊 二十一丁

天海がつくった上野の名所、不忍池

江戸時代は現在よりも広く、風情ある景観で人気の観光地だった不忍池。スワンボートはありませんが(笑)、十分楽しめたようです。

不忍の池は古代、上野のお山と本郷台地の間に東京湾が深く入り込んでいたのが、一部だけ取り残された形となり、紀元前数世紀ごろには池となっていたようで、室町時代には今の名前で呼ばれていました。

『江戸名所図会』の本文には、「東叡山草創のとき、慈眼大師(天海)この地を江州の琵琶湖になぞらへ、新たに中島を築き立てて、弁天の祠を建立せられしと云々」とあります。比叡山になぞらえて建てられたのが東叡山ならば、琵琶湖に見立てて整備されたのが不忍の池というわけです。また、人口の島である中島については「昔は離れ島にして船にて往来せしを、寛文の末陸より道を築きて、参詣の人に便りあらしむ」とあり、元々は中島が陸から切り離された場所につくられていた、文字通り“池の中の浮島”であったということがわかります。なかなか風情がありますね。

弁天堂の周りにずらりとならぶ茶屋の名物は蓮飯でした。作り方は店によってそれぞれで、池でとれる蓮の葉にくるんでご飯を蒸したり、湯通しして刻んだ蓮の葉に塩味をつけて混ぜご飯にしたり……おいしそう!

ちなみに、現在の弁天堂のまわりには扇塚・芭蕉句碑など20余りの記念碑が林立していますが、その中の一つに“めがね之碑”があります。このめがねの碑に刻まれている老眼鏡、じつは徳川家康愛用の老眼鏡がモチーフになっているんですよ。探してみてくださいね~。



出会い茶屋街、池之端

画面の下におもむろに頭をのぞかせている街並みがあります。この界隈は池之端と呼ばれ、料亭や老舗の立ちならぶ場所でした。というと、いかにもお行儀がいい感じがしますが、実際には池之端と言えば、お江戸屈指の出会い茶屋街。出会い茶屋というのは、男女が密会して逢引きを楽しむところ、つまり……ラブホテル街だったんですね。また、出会い茶屋だけでなく、男娼街としても有名でした。

川柳に、

池の端男ばかりの惣籬(そうまがき)

と詠まれていることからもその隆盛ぶりがうかがえます。江戸最大級の大寺の御膝元ですから、衆道(しゅどう)の需要も相当だったというところでしょうか。

宗教的な聖地のお膝元に歓楽街! 聖と俗が表裏一体なのは、江戸文化のおおらかさであり、面白さですねぇ。

また、池之端とは三橋を挟んで反対側に位置していた、俗にいう“上野山下”のあたりは、けころと呼ばれる売春婦の私娼街。「安くてはやい」をモットーに、文字通り蹴転がるようにお客をこなした彼女たち(たくましい!)は、上野山下名物でした。

以上、上野界隈ダークサイドレポートでした!

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

上野のいま③

3月24日、東京地方は桜が満開になりました。これは1953年の統計開始以来、3番目の早さだそう。5日後の29日には夏日を記録。その翌日、花びら舞う上野公園を通って、不忍池へ向かいました。
弁天堂へと続く道は露店が並び、午前中から大賑わい。池ではスワンボートを楽しむ人でいっぱい。カップルばかりかと思いきや、女子二人でボートを漕ぐ姿も多く見受けられました。池の隅には早くも花筏……10日前には雪が降っていたのになあ。季節の移り変わりがめまぐるしい、2018年の春。4月の入学式シーズンに桜がないのはちょっぴり寂しいですね。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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目次

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深川編

向島編

上野編

浅草編