堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。毎月1日と15日の更新です。

東叡山寛永寺 桜が峯・山王社第五巻 十四冊 二十四丁

上野戦争を振り返る

桜が峯という名前の通り、江戸時代から桜の名所だった上野。こんな風流な場所が悲惨な戦場になるなんて……歴史って残酷だなぁ。

現在、上野公園前の蛙の噴水があるあたりに、寛永寺の総門である黒門がありました。ここは上野戦争(1868年、5月15日。江戸城無血開城を不服とする旧幕臣達を中心に結成された彰義隊と、明治新政府軍の戦い)最大の激戦地です。

彰義隊は最初、三橋(みはし)のあたりに畳と俵でバリケードを張り前衛としました。対する新政府軍は広小路(現在の上野松坂屋付近)に本陣をしきました。前衛で両軍の小競り合いが開始されると、近代武装を整えていた新政府軍に戦況有利。じりじりと敗色の濃くなった彰義隊は黒門まで後退し、以降、黒門をはさむ形で両陣営による激しい銃撃戦が展開します。

江戸のお寺は有事の際は軍事拠点となるよう計画的に配置されていました。寛永寺の黒門は旧幕府軍にとっては死守すべき防衛ラインであり、新政府軍にとっては奪還すべき攻略ポイントだったんです。

じつはこの黒門、現在も南千住の円通寺に移築され、ほぼ当時のかたちのまま現存しています。境内になにげなく建っていて、正直かなり見た目は貧相。「ほんとにこれがあの黒門なのかなぁ」と、ちょっと不安になったのですが、よくよく見ると、門の全面に無数の弾痕が……! 正真正銘本物でした。改めて全貌を眺めてみると、戦闘のすさまじさを物語るために1868年から時を経ることを放棄したかのような出で立ち。感慨すら覚えます。貧相とか言って、ごめんなさい。



彰義隊を壊滅させたもの

三橋の前線を突破した新政府軍がこのまま一気に圧勝するかに見えた戦況ですが、黒門付近の攻防戦では意外にも彰義隊が善戦します。効果を発揮したのは山王台(現在の西郷さんの銅像があるあたり)に設置していた7門の砲台。黒門に殺到する新政府軍を、お山の上から狙い撃ちしたのでした。

膠着する戦場を揺るがしたのは、新政府軍の放ったアームストロング砲。不忍の池の対岸、本郷台に陣をしいていた佐賀藩の砲兵隊の操るこの砲弾が、徐々に山内に着弾するようになり彰義隊側に動揺が走りました。そのころ黒門前の攻防戦に従事していた新政府軍砲兵隊も、山王台からの砲撃に対抗するため広小路にあった料理屋「雁鍋(がんなべ)」「松源(まつげん)」の2階に大砲を運び込み、そこから山王台を砲撃することに成功。遂に黒門は突破され、山王台も新政府軍に制圧され、彰義隊は壊滅します。

黒門を見下ろす位置にある山王台には、現在は西郷さんの銅像と、その後ろに旧幕府軍として戦ってこの地で亡くなった彰義隊のお墓があります。西郷さんの写真をとったら、彰義隊のお墓にも手を合わせましょう。

その後、折から降りしきる五月雨の中、山内になだれ込んだ新政府軍、そして敗走する彰義隊、双方によって伽藍に火が放たれ、境内は灰燼に帰したのでした。なにも焼かなくったって……(涙)。

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

上野のいま②

愛犬を連れて散歩中の着流し姿の西郷さん。いまや上野公園だけではなく上野のシンボルと言っても過言ではありません。この愛嬌のある西郷隆盛像は、彫刻家の高村光雲の作品。大河ドラマ『西郷(せご)どん』人気も相まって、スマホを持った多くの人たちが、カシャカシャ写真を撮っていました。
西郷さんの後方にひっそりとあるのは彰義隊のお墓。きれいなお花が手向けられており、熱心に手を合わせるカップルの姿も見られました。今年は明治150年にあたる、といろいろなメディアで取り上げられていますが、幕府側から見れば、戊辰戦争150周年でもあるんですね。一日で散った彰義隊の兵士たちに思いを馳せながら、心を鎮めて手を合わせました。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額550万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る

会員ID、パスワードをお忘れの方

『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

吉原はスゴイ~江戸文化を育んだ魅惑の遊郭~

堀口茉純最新刊!

吉原はスゴイ
~江戸文化を育んだ魅惑の遊郭~

PHP新書
940円(税別)

目次

日本橋編

深川編

向島編

上野編

浅草編