堀口茉純のやっぱり江戸が好き!堀口茉純のやっぱり江戸が好き!

「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。

金龍山浅草寺第六巻 十六冊 二丁

浅草といえば雷門っていつから?

浅草といえば浅草寺! 当時の雷門門前の様子がこちらです。目の前には火除け地である広小路の広々としたスペースが! 道の真ん中では植木屋さんがお店を広げていますね。

浅草寺(せんそうじ)の総門(正門)ともいうべきところ。942(天慶5)年、武蔵の国司となった平公雅(たいらのきみまさ)が荒廃していた浅草寺の再建に着手し、最初に総門を建てた場所は駒形堂付近だったというから、かなり長い参道があったんですね。その後、焼失を繰り返し、鎌倉時代に現在の場所に落ち着きました。風神・雷神様が門の左右に祀られるようになったのもこのころです。

さて『江戸名所図会』に描かれている雷門は1795(寛政7)年に再建されたもの。大提灯に“志ん橋”とあるのは、新橋の海産物商人たちが奉納したからです。つまり、職人達のマーキング。彼らは門をくぐるたびに「こいつァ、俺たちが奉納したんだぜっ!」と自慢したかもしれません。私だったらするな(笑)。

雷門をクローズアップ。現在の提灯は戦後に架け替えられたものですが、じつはこの絵にも描かれている江戸時代の物が現在も見られるんです! 詳しくは本文で。

せっかく親しまれたこの雷門も、1865(慶応元)年に田原町からの火災で類焼。次に再建されるのはなんと約100年後、1960(昭和35)年に実業家・松下幸之助氏の寄進を待たねばなりません。この時に初めて、大提灯正面に“雷門”と書かれました。「浅草寺といえば雷門」というのは戦後に形成された、比較的新しいイメージなんですね。

しかし現在の雷門にも歴史を感じるものがしっかり残っているんですよ。それが風神・雷神様の頭部分。慶安年間(1648~52年)に作られたというかなりの年代物なんです。いくたびもの火災、震災、戦災の歴史を見つめてきたその眼差しは特別な威厳に満ちています。次回お出かけの際には、じっくりご覧になってくださいね。



日本の定食屋さん発祥の地

ここには「並木町」と書いてあります。暖簾や看板が出ていますから、こちらが門前町として栄えていたことがうかがえますね。じつはここ、日本の定食屋さん発祥の地なんですよ。

室町時代以前から、街道沿いや、寺社の前に水茶屋や軽食屋台が出ることはありましたが、しっかりとした“食事”をすることを目的にした店はなかったようです。外出時はお弁当持参が基本だったんですね。しかし、1657(明暦3)年の明暦の大火(江戸市中の大半を焼き尽くした。死者10万人ともいわれる)以降、復興のため、大量の大工人足が地方から江戸の町に流入すると、彼らの空腹を満たすため、手軽な外食産業の需要が急速に高まりました。そこで門前の並木町に登場したのが“奈良茶飯(ならちゃめし)”を出す飲食店。奈良茶飯とは、米に煎り豆や栗などを混ぜてお茶で炊き上げた茶飯に、総菜と豆腐汁をつけて提供するセットメニュー。まさに当時の“定食屋さん”だったようです。

浅草界隈は江戸の地酒でも有名でした。ここに書かれれている隅田川のほかにも、宮戸川、都鳥などの銘柄があり、隅田川の水を使って作っていたとか。現在では想像がつかないほど水質がよかったんでしょうね。

ちなみに、ギネスブックに載っている世界最古のレストランは、スペインはマドリードにあるボティンというお店。創業は1725年だそうです。それより早い段階で定食屋さんがあっただなんて、江戸の町って、ほんとうに進んでいたんですねぇ。

※この文章は「お江戸いいね!~I Like EDO」の「ほーりー 江戸を斬る!」を加筆修正したものです。

浅草のいま①

浅草最大の名所といっても過言ではない、浅草寺雷門。筆者が撮影した時も、多くの外国人観光客がスマホ片手にパシャパシャ記念撮影をしていました。

このフォトジェニックな雷門ですが、昨年(2017年)、再建後初となる本格改修が行なわれました。約9500枚の屋根瓦のふきかえが改修メニューにあったため、工事期間の6月下旬から10月中旬まで、屋根部分には工事前に撮影した実物大の写真をプリントしたシートがかぶせれられました。また大提灯はシートで覆わず、足場の組み方を工夫し、その下も通行できるようにしていました。これぞ、観光客をがっかりさせないための「おもてなし」。屋根瓦が新しくなった雷門。確かに、きれいになっていました! 工事を担当されたみなさん、お疲れさまでした。

そういえば今週末から三社祭。浅草に熱い夏がやってきます。

(写真・文/ジャパンナレッジ編集部)

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『江戸名所図会』とは

江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。

プロフィール

堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

堀口茉純(ほりぐちますみ)

江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。

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目次

日本橋編

深川編

向島編

上野編

浅草編