「三度の飯より江戸が好き」というお江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーこと堀口茉純さんが、江戸後期の地誌『江戸名所図会』を江戸の暮らしという視点から読み解くコーナー。江戸っ子のリアルな生活、ぜひ体感してみてください。
地盤の低い隅田川西岸では、このあたりだけこんもりと盛り上がり山になっています。ちなみに待乳山の読みは「マツチヤマ」ですが、地元の方は「マッチヤマ」とツを促音にして読みます
真乳山(真土山、現在は待乳山)聖天宮(まつちやましょうてんぐう)は、御縁起が601年(推古天皇9年)にまでさかのぼるという浅草エリアきっての古刹。595年(推古天皇3年)に一夜のうちに地面が隆起して山ができ、金の龍が舞い降りて守護したというのがご縁起の始まりです。その6年後にこの界隈を大旱魃が襲った際には大聖歓喜天=聖天様が現れて人々を救ったことから、聖天様を祀るようになりました。ちなみに現在の正式名称は「金龍山本龍院」。親しまれている“真乳山”という名称は、御本尊や龍の伝説から、旱魃を救った慈雨を乳にたとえたことに由来するといいます。また、浅草寺の御由緒の時に登場した“土師真中知(はじのまなかち)”は、“ハジノマッチ”とも読めることから、当時ここに彼の邸宅があって、彼の名前である“マッチ”という音に当て字にしたのではないかという説もあります。
いずれにしろ、江戸時代には、吉原にも近く、山谷堀(さんやぼり)の芸者衆など花柳界の女性から厚い信仰を集めてきたということもあって、"真乳山"の看板に恥じない、かなり艶っぽい風情のある場所だったようです。
境内の配置は現代も『江戸名所図会』とほぼ変わりませんが、近年、階段はキツイ!という方のためにモノレールが設置されました! 体力に自信がない人も、安心してお参りができるのはうれしいですね。
鳥居の右側に見える"築地塀"は幕末当時から残るもの。ちなみにこれは“ついじべい”と読みます。最初は"築泥塀(ツキヒジベイ)"と言っていたそうですが、言いづらいのでツキヒジ→ツイジにしたそう。名前一つにも、いろいろ歴史があるんですね。
江戸前期の国学者、戸田茂睡(もすい)が元禄時代にこの真土山に初めて建てたものがあります。今では名所旧跡でおなじみのものなのですが、それは一体、何でしょう?
答えは「歌碑」。「あはれとは 夕越えて行く人もみよ まつちの山に のこすことの葉」 という自身の歌を、山頂に歌碑として残したのです。当時の山頂からは江戸の市街地から、筑波山、富士山までが一望でき、風光明媚な景勝地として人気がありました。
高い建物がなかった江戸時代には景勝地として人気だった真乳山。江戸っ子たちのデートスポットとしても人気でした。
歌碑の横には腰掛もありますね。この場所に簡単な茶店が出て、参詣客の休憩場所になっていたそうです。今、同じ場所から隅田川方面を見ると、東京スカイツリーが目に飛び込んできます。当時の人たちがこの風景を見たら、そりゃあ驚くことでしょうねぇ~。
浅草駅から約10分の小高い丘にある待乳山聖天宮。築地塀に囲まれた階段を上がると、正面に濃い赤色の本堂が見えます。そして参道脇にある売店にはなぜか、大根が売られています。
大根は巾着とともに待乳山聖天のシンボル。本堂の入口などに見られる紋章には巾着と二股大根の組み合わせが描かれています。巾着は砂金袋に見立て商売繁盛を、二股大根は無病息災、夫婦和合、子孫繁栄を意味するそうです。売店に売られていた大根は本殿にお供えするためのもの。お供えした大根はお下がりの大根として本殿の脇のほうに並べられて、参拝客は持って帰ることができます。毎年1月7日は大根まつり。元旦以来、お供えされていた大根は、ふろふき大根にしてふるまわれます。
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江戸時代を代表する地誌で、江戸名所の集大成と評される、江戸後期の"ガイドブック"。斎藤幸雄・幸孝・幸成(月岑)の親子三代が手がけた大事業で、天保5(1834)年と天保7(1836)年の二度に分け、7巻20冊が刊行。1000を数える項目には、江戸はもちろん、現在の神奈川、千葉、埼玉の名所も含まれる。絵師長谷川雪旦の742点の挿画では、神社仏閣や景勝地などの実地調査に基づいた俯瞰図や、生活風俗に関係する事柄の詳細で写実的な描写が楽しめる。歴史や風俗資料としても活用されている。
江戸にくわしすぎるタレント=お江戸ル(お江戸のアイドル!?)ほーりーとして注目を集め、執筆、イベント、講演活動にも精力的に取り組む。初めての著書の『TOKUGAWA15』(草思社)は歴史書籍としては異例のロングセラーに。近刊は『江戸名所図会』など近世の版本史料を駆使して江戸人の生活実態に迫る『江戸はスゴイ~世界一幸せな人びとの浮世ぐらし~』(PHP新書)。NHKラジオ第1『DJ日本史』、TOKYO MX『週末ハッ ピーライフ!お江戸に恋して』にレギュラー出演中。