ニッポン書物遺産

大辞泉

episode.1
言葉は時代と共に、常に変化する。新しい言葉は次々と誕生し、あるものは定着し、あるものは消えていく。特にインターネットが当たり前になった21世紀以降、言葉の誕生するスピードは飛躍的に増している。そんな中、「辞書」に求められている役割とは?
『大辞泉』の"今"と"誕生のきっかけ"──大辞泉編集長の板倉俊氏にお話を伺う、第1回。

手書き文字機能で話題沸騰! 
進化し続ける『デジタル大辞泉』


──紙の辞書、CD-ROMの辞書、メーカーが作る電子辞書に続き、現在はスマートフォン(注1)など専用のデバイスに特化した「アプリケーション」としての辞書が注目を集めています。iPhone(注2)/iPod touch(注3)用辞書ソフト『デジタル大辞泉』は、2010年4月現在、バージョン5.0.1が発売中です。
追加項目3000、修正項目1万を含む、約23万9000項目の辞書となりました(注4)。09年末に出したバージョン4.0から引き続き、iPhone/iPod touch用では手書き文字認識エンジンを搭載しており、読めない漢字は検索できないという国語辞典最大の欠点が克服されています。
──デジタルだからこそ、紙よりも引きやすい。
そうです。私たちの『デジタル大辞泉』の引きやすさをわかってもらうために、よくこんなクイズを出すんです。イラクの首都はどこですか、と。もちろん正解は"バグダッド"。ところがこの都市の名前を、"バグダット"や"バクダット"と勘違いして覚えてらっしゃる方が多いんです。最近では、より現地の音に近づけようと"バグダード"という表記例も増えてきました。ところが、巷に流布している他の電子辞書で、たとえば"バグダット"と引くと、ヒットしない。『デジタル大辞泉』(iPhone/iPod touch用)では、仮に"ハクタット"と濁点をすべて抜いて入れても、ちゃんと"バグダッド"の項目にたどり着けるようになっているんです。"iPhone"であれば、アルファベットの全角半角、大文字小文字の揺れにも対応しますし、アイフォーンはアイホン、アイフォンでも引くことができるんです。人の記憶のあいまいさを補完しながら、スピーディーに語句が検索できる辞書を目指した結果、こうなりました。

先行する二つの辞書と
『大辞泉』の違いとは?

──『広辞苑』(1955年誕生)、『大辞林』(1988年誕生)と、先行する中型国語辞典に対して、『大辞泉』の発行は1995年です。
当然、先行する2つの辞書は気にしました。同じものを作っても仕方がない。ではどんな違いを出すか。ひとつのこだわりは、「カラー」です。本というものは、製本の関係で束(本の厚み)に制限があります。収録語を増やすには、薄い紙を使ってページ数を増やさないといけません。しかし私たちは、画像を増やし、視覚的な情報量が圧倒的に多いカラーの辞書を作りたかった。紙が薄いと裏写りしてしまうわけです。どうしたかというと、大辞泉用の新しい紙を開発したんです。
──「紙」から作ってしまった。
そうです。私たちはさらに、98年に増補・新装版を出した際に、いち早く、CD-ROM版も出したんです。当時、ウインドウズ95が世間に浸透しつつあって、パソコンという新しいメディアに対応した辞書が必要とされていました。ディスプレイ上で文字を読むというスタイルの登場です。ただ、当時はまだ本が主で、デジタルは従と考えていました。しかし、書籍のデータは日々古くなってきます。デジタルなら修正できると気づいたときから、その考えが逆転し始めました。
──それが現在の、ジャパンナレッジなどのネットで引ける辞書、iPhone用辞書と多数のメディア展開に繋がっていったんですね。
紙の辞書は、いくら新しい言葉が増えたからといって、毎年毎年、改訂版を出すというわけにはいきません。ネットなどのメディアからしたら、それでは物足りない。そこで私たちは、年3回、データをアップデートすることにしたんです。これによって、生まれたばかりの"新しい言葉"を辞書で引く、という状態に一歩近づきました。どんな辞典が今後必要とされるかを考え抜いた結果が『常時改訂』だったのです。
  • 注1 スマートフォン
    音声通話以外に、インターネット接続、スケジュール管理、メモ帳など、PDAと同等の機能を持つ携帯電話。
  • 注2 iPhone
    米・アップル社製のスマートフォン。ディスプレーにタッチパネルを搭載。インターネットやメール機能はもちろん、音楽再生やカメラや動画機能も楽しめる。現在日本で発売されているiPhone3GSは3Gネットワークに対応しGPSが搭載されている。
  • 注3 iPod touch
    iPhone同様、アップル社が開発した携帯音楽プレーヤー。音楽のほかに、静止画や動画の再生に適する。無線LANを内蔵し、インターネットの接続や電子メールも可能。
  • 注4 追加項目3000~
    4月20日、ジャパンナレッジに公開されるデータは追加3000、修正1.5万、総項目数24.2万となる。
次回は4月22日(木)を予定。

企画が持ち上がったのは1966年。30年をかけて95年に刊行された。現代日本語に重きを置き、生活に根ざしたオールカラーの画期的な国語辞典。巻末付録は、動詞などの活用表や常用漢字、人名漢字から、カラーページを活用した色と言葉のページなど盛りだくさんの内容だ。

増補・新装版は98年に発売。独自に紙を開発し、初版よりもサイズが一回り小さくなったことで、ページ数は50ページ以上増えたものの、重さは1kg軽くなった。項目数は22万、カラー図版は6000点あまり。類語や敬語といったその言葉に関する関連語もまとめて収録、また「あがる」「のぼる」など使い方が微妙に違う言葉の用法もくわしく説明されている。「漢字・難読語一覧」「カタカナ略語一覧」が付いており実用性が増している。

言葉は時代と共に、常に変化する。新しい言葉は次々と誕生し、あるものは定着し、あるものは消えていく。特にインターネットが当たり前になった21世紀以降、言葉の誕生するスピードは飛躍的に増している。そんな中、「辞書」に求められている役割とは?
『大辞泉』の"今"と"誕生のきっかけ"──大辞泉編集長の板倉俊氏にお話を伺う、第1回。

手書き文字機能で話題沸騰! 
進化し続ける『デジタル大辞泉』


──紙の辞書、CD-ROMの辞書、メーカーが作る電子辞書に続き、現在はスマートフォン(注1)など専用のデバイスに特化した「アプリケーション」としての辞書が注目を集めています。iPhone(注2)/iPod touch(注3)用辞書ソフト『デジタル大辞泉』は、2010年4月現在、バージョン5.0.1が発売中です。
追加項目3000、修正項目1万を含む、約23万9000項目の辞書となりました(注4)。09年末に出したバージョン4.0から引き続き、iPhone/iPod touch用では手書き文字認識エンジンを搭載しており、読めない漢字は検索できないという国語辞典最大の欠点が克服されています。
──デジタルだからこそ、紙よりも引きやすい。
そうです。私たちの『デジタル大辞泉』の引きやすさをわかってもらうために、よくこんなクイズを出すんです。イラクの首都はどこですか、と。もちろん正解は"バグダッド"。ところがこの都市の名前を、"バグダット"や"バクダット"と勘違いして覚えてらっしゃる方が多いんです。最近では、より現地の音に近づけようと"バグダード"という表記例も増えてきました。ところが、巷に流布している他の電子辞書で、たとえば"バグダット"と引くと、ヒットしない。『デジタル大辞泉』(iPhone/iPod touch用)では、仮に"ハクタット"と濁点をすべて抜いて入れても、ちゃんと"バグダッド"の項目にたどり着けるようになっているんです。"iPhone"であれば、アルファベットの全角半角、大文字小文字の揺れにも対応しますし、アイフォーンはアイホン、アイフォンでも引くことができるんです。人の記憶のあいまいさを補完しながら、スピーディーに語句が検索できる辞書を目指した結果、こうなりました。

先行する二つの辞書と
『大辞泉』の違いとは?

──『広辞苑』(1955年誕生)、『大辞林』(1988年誕生)と、先行する中型国語辞典に対して、『大辞泉』の発行は1995年です。
当然、先行する2つの辞書は気にしました。同じものを作っても仕方がない。ではどんな違いを出すか。ひとつのこだわりは、「カラー」です。本というものは、製本の関係で束(本の厚み)に制限があります。収録語を増やすには、薄い紙を使ってページ数を増やさないといけません。しかし私たちは、画像を増やし、視覚的な情報量が圧倒的に多いカラーの辞書を作りたかった。紙が薄いと裏写りしてしまうわけです。どうしたかというと、大辞泉用の新しい紙を開発したんです。
──「紙」から作ってしまった。
そうです。私たちはさらに、98年に増補・新装版を出した際に、いち早く、CD-ROM版も出したんです。当時、ウインドウズ95が世間に浸透しつつあって、パソコンという新しいメディアに対応した辞書が必要とされていました。ディスプレイ上で文字を読むというスタイルの登場です。ただ、当時はまだ本が主で、デジタルは従と考えていました。しかし、書籍のデータは日々古くなってきます。デジタルなら修正できると気づいたときから、その考えが逆転し始めました。
──それが現在の、ジャパンナレッジなどのネットで引ける辞書、iPhone用辞書と多数のメディア展開に繋がっていったんですね。
紙の辞書は、いくら新しい言葉が増えたからといって、毎年毎年、改訂版を出すというわけにはいきません。ネットなどのメディアからしたら、それでは物足りない。そこで私たちは、年3回、データをアップデートすることにしたんです。これによって、生まれたばかりの"新しい言葉"を辞書で引く、という状態に一歩近づきました。どんな辞典が今後必要とされるかを考え抜いた結果が『常時改訂』だったのです。
  • 注1 スマートフォン
    音声通話以外に、インターネット接続、スケジュール管理、メモ帳など、PDAと同等の機能を持つ携帯電話。
  • 注2 iPhone
    米・アップル社製のスマートフォン。ディスプレーにタッチパネルを搭載。インターネットやメール機能はもちろん、音楽再生やカメラや動画機能も楽しめる。現在日本で発売されているiPhone3GSは3Gネットワークに対応しGPSが搭載されている。
  • 注3 iPod touch
    iPhone同様、アップル社が開発した携帯音楽プレーヤー。音楽のほかに、静止画や動画の再生に適する。無線LANを内蔵し、インターネットの接続や電子メールも可能。
  • 注4 追加項目3000~
    4月20日、ジャパンナレッジに公開されるデータは追加3000、修正1.5万、総項目数24.2万となる。
次回は4月22日(木)を予定。

板倉 俊(いたくら・たかし) 板倉 俊(いたくら・たかし)

1959年生まれ。小学館コミュニケーション編集局プロデューサー兼新百科編集編集長。95年『大辞泉』の刊行に携わるなど辞書編集を専門に手がける。他に『CD-ROM大辞泉』『例解学習漢字辞典』(部首ナビ考案)『数え方の辞典』『きっずジャポニカ』を担当。2006年より『デジタル大辞泉』のデータ更新を始めた。