ニッポン書物遺産

日本歴史
地名大系

episode.3
20万におよぶ見出し項目、1億2000万文字の膨大なデータ。全51冊の『日本歴史地名大系』(通称『歴史地名』)が、ジャパンナレッジに登場した。デジタル化によって『歴史地名』はどう変わったのか。今後の可能性は? 元編集長、森田東郎さんにお話を伺う最終回。

作り手だからこそわかる
デジタル版の魅力

──デジタル版の『歴史地名』だから生まれた、森田さんが思うメリットとは何でしょうか。
『歴史地名』には普通の書籍と違って、読者も地域性が強いという特徴があるんです。自分の住んでいる都道府県の巻だけを持っている、という個人読者が非常に多い。新しい巻が出ると、私も営業担当ともどもその都道府県の書店に販促に行きましたが、地元の本ということで書店の反応も良く、ほとんどの巻の新刊時の実売率は8割を超えました。しかし一方で、全巻を通して読むということが、大きな図書館に行かない限り、なかなか難しい。ジャパンナレッジは、個人の全巻通読を可能にしました。ジャパンナレッジ会員になるということは、個人で簡単に全巻揃えるようなものですから。ひとつリクエストするなら、現在は限られた地域だけで行なわれているグーグルの地図と地名などの見出し項目のリンクを全国範囲に広げてもらえれば、もっとありがたい(※現在作業中)。
──あとはどう使いこなすか、ですね。
私は、外出先などで気になった地名があると、すぐに検索しています。すると、今まで見えていた表面的な景色が、歴史を知ることでぐっと深くなる。ネットですぐに確認できるという手軽さが便利ですね。
 もうひとつの利点は、全国区で比較検討ができること。例えば、自分の住んでいる地名を検索してみる。すると、全国の同名の地名やその分布までが確認できます。比較し検討してみると、それまで見えなかったものが見えてくるんですね。
──歴史や地名に対する興味・関心が深まりますね。
私たちが、自分の歴史を語るとしましょう。おそらく、生まれた場所、住んでいる場所……と「地名」なしでは語れないはずです。言い換えれば、個人の歴史は、地名とは切り離しがたいのです。だからこそ、もう一度「地名」について興味を持ってもらいたい。調べるという行為は、知的にも面白い行為になるはずです。まず、自分に関わりのある土地からでいいから、検索してみてください。

真の地方分権に必要なのは
「その土地の歴史」

──平成の大合併で、ふるさとの地名がなくなった、という人も増えてしまいました。残念ながら、新しい地名に「歴史」はありません。
ジャパンナレッジは平成の大合併(注1)に対応していますので、その土地の過去を調べることは可能です。ただ、あの合併騒動には今でも疑問が残ります。多くの合併は、その土地が持っていた歴史とは無関係に行なわれました。歴史的地名の多くも地図から消えました。結果、歴史を失い、似たり寄ったりの地域が全国に生まれてしまったのです。地域の再生というよりは、合併でより疲弊させてしまったといえるでしょう。歴史を顧みない地域再生はあり得ません。
──村興しはその土地の歴史を考えて行なうべき、ということですね。
ええ。地域の再生は、その土地、歴史に根ざしたものであるべきなんです。例えば徳島の過疎高齢化が進む山村、上勝町(かみかつちょう)(注2)では、料理に彩りを添えるつまもの(葉っぱや木の実)を出荷するというビジネスで、村興しをしました。『歴史地名』で上勝町を調べると、昔から山林の恩恵で生活してきたことがわかります。そこに立ち返ったのですね。これは、中央からの発想ではなく、自分たちの生活に根ざした土地からのアイデアです。
──地域再生に『歴史地名』が役に立つ、と。
『歴史地名』には、その土地の歴史が詰まっています。つまり、新しい村興しの構想の源になる可能性を秘めているのです。そういった目で『歴史地名』をジャパンナレッジで検索してみると、なにかしら面白い発見が見つかるんじゃないでしょうか。また、そういう役に立てたら、地名事典の編集に携わった者として嬉しいですね。
  • 注1 平成の大合併
    1999年から政府主導で行なわれた市町村合併。自治体を広域化することによって行財政基盤を強化し、地方分権の推進に対応することなどを目的とする。同年3月時点で3232あった自治体は10年でほぼ半減した。
  • 注2 上勝町
    徳島県中央部勝浦郡にある町。江戸時代後期には、水田より、畑地・山畑が多く、また茶・楮(こうぞ)・桑・漆などが植えられていたという。

2006年10月にジャパンナレッジのコンテンツとして登場した『歴史地名』。平成の市町村合併にも対応し、考古学の最新成果も補充されている。個別ページは、複雑な検索にも対応できる3つの検索窓を用意した「キーワード検索」、書籍を読む感覚で楽しめる「県別閲覧」、「地図・資料」の3コーナーに分かれている。

「キーワード分布図」では、検索した言葉が入った地名が、どの地域にいくつ存在しているか、または分布しているかを一目でチェックすることができる。画像は「梅」のつく見出し項目を検索した結果、作られた分布図。

「いま住んでいる滋賀県についてよく調べています。ジャパンナレッジ版は、その項目だけではなく、関連したものが一気に出てくる。書籍とは違った、新しい発見があり、書籍の作り手にとっても新鮮です」(森田)

20万におよぶ見出し項目、1億2000万文字の膨大なデータ。全51冊の『日本歴史地名大系』(通称『歴史地名』)が、ジャパンナレッジに登場した。デジタル化によって『歴史地名』はどう変わったのか。今後の可能性は? 元編集長、森田東郎さんにお話を伺う最終回。

作り手だからこそわかる
デジタル版の魅力

──デジタル版の『歴史地名』だから生まれた、森田さんが思うメリットとは何でしょうか。
『歴史地名』には普通の書籍と違って、読者も地域性が強いという特徴があるんです。自分の住んでいる都道府県の巻だけを持っている、という個人読者が非常に多い。新しい巻が出ると、私も営業担当ともどもその都道府県の書店に販促に行きましたが、地元の本ということで書店の反応も良く、ほとんどの巻の新刊時の実売率は8割を超えました。しかし一方で、全巻を通して読むということが、大きな図書館に行かない限り、なかなか難しい。ジャパンナレッジは、個人の全巻通読を可能にしました。ジャパンナレッジ会員になるということは、個人で簡単に全巻揃えるようなものですから。ひとつリクエストするなら、現在は限られた地域だけで行なわれているグーグルの地図と地名などの見出し項目のリンクを全国範囲に広げてもらえれば、もっとありがたい(※現在作業中)。
──あとはどう使いこなすか、ですね。
私は、外出先などで気になった地名があると、すぐに検索しています。すると、今まで見えていた表面的な景色が、歴史を知ることでぐっと深くなる。ネットですぐに確認できるという手軽さが便利ですね。
 もうひとつの利点は、全国区で比較検討ができること。例えば、自分の住んでいる地名を検索してみる。すると、全国の同名の地名やその分布までが確認できます。比較し検討してみると、それまで見えなかったものが見えてくるんですね。
──歴史や地名に対する興味・関心が深まりますね。
私たちが、自分の歴史を語るとしましょう。おそらく、生まれた場所、住んでいる場所……と「地名」なしでは語れないはずです。言い換えれば、個人の歴史は、地名とは切り離しがたいのです。だからこそ、もう一度「地名」について興味を持ってもらいたい。調べるという行為は、知的にも面白い行為になるはずです。まず、自分に関わりのある土地からでいいから、検索してみてください。

真の地方分権に必要なのは
「その土地の歴史」

──平成の大合併で、ふるさとの地名がなくなった、という人も増えてしまいました。残念ながら、新しい地名に「歴史」はありません。
ジャパンナレッジは平成の大合併(注1)に対応していますので、その土地の過去を調べることは可能です。ただ、あの合併騒動には今でも疑問が残ります。多くの合併は、その土地が持っていた歴史とは無関係に行なわれました。歴史的地名の多くも地図から消えました。結果、歴史を失い、似たり寄ったりの地域が全国に生まれてしまったのです。地域の再生というよりは、合併でより疲弊させてしまったといえるでしょう。歴史を顧みない地域再生はあり得ません。
──村興しはその土地の歴史を考えて行なうべき、ということですね。
ええ。地域の再生は、その土地、歴史に根ざしたものであるべきなんです。例えば徳島の過疎高齢化が進む山村、上勝町(かみかつちょう)(注2)では、料理に彩りを添えるつまもの(葉っぱや木の実)を出荷するというビジネスで、村興しをしました。『歴史地名』で上勝町を調べると、昔から山林の恩恵で生活してきたことがわかります。そこに立ち返ったのですね。これは、中央からの発想ではなく、自分たちの生活に根ざした土地からのアイデアです。
──地域再生に『歴史地名』が役に立つ、と。
『歴史地名』には、その土地の歴史が詰まっています。つまり、新しい村興しの構想の源になる可能性を秘めているのです。そういった目で『歴史地名』をジャパンナレッジで検索してみると、なにかしら面白い発見が見つかるんじゃないでしょうか。また、そういう役に立てたら、地名事典の編集に携わった者として嬉しいですね。
  • 注1 平成の大合併
    1999年から政府主導で行なわれた市町村合併。自治体を広域化することによって行財政基盤を強化し、地方分権の推進に対応することなどを目的とする。同年3月時点で3232あった自治体は10年でほぼ半減した。
  • 注2 上勝町
    徳島県中央部勝浦郡にある町。江戸時代後期には、水田より、畑地・山畑が多く、また茶・楮(こうぞ)・桑・漆などが植えられていたという。

森田東郎(もりた・はるお) 森田東郎(もりた・はるお)

1940年生まれ。1963年、三一書房に入社。毎日出版文化賞特別賞を受賞した『日本庶民生活史料集成』を担当。その後、企画・編集プロダクション文彩社設立に参加、『日本都市生活史料集成』(学習研究社、現・学研)を担当。1975年に『日本歴史地名大系』の立ち上げに参画。その後、編集長に就任し、『歴史地名』を完成まで見届けた。