ニッポン書物遺産

江戸名所
図会

episode.5
『江戸名所図会』を手がかりに、現代人が江戸を楽しむ秘訣とは?鈴木章生目白大学教授×お江戸ル堀口茉純のトークバトル最終回、お題は「江戸流・散歩のすすめ」

歩くと見えてくるものがある

堀口「『江戸名所図会』を見ていて、その細かな観察力に驚いてしまうんですが、編著者の斎藤幸成(月岑)も、絵師の長谷川雪旦も、これだけの場所を歩いて回ったのかと思うと、敬服しちゃいますね」

鈴木「江戸の人たちは"歩く"ことで生活が成り立っていましたから、私たちが思うよりは苦ではなかったかもしれません」

堀口「今、江戸時代の古地図を手にした町歩きもブームになりつつありますよね」

鈴木「東京には、私たちが驚くほど、江戸時代の面影がまだ残っているんです。訪れる場所を『江戸名所図会』から探して、その部分の絵をコピーする。それを携えて、現地で見比べるなんて楽しいですよ。安藤(歌川)広重の『名所江戸百景』(注1)も一緒に持って行くと、なお面白さが増しますね。脳の中で江戸の情景と今を重ね合わせる――極上の脳内体験ができます」

堀口「電車や車の窓からは気付かなかったものが、歩くと見えてきますよね。私も、江戸に興味を持ち始めてから、積極的に歩くようにしているんです。例えば、30分早く家を出て、目的の駅の1つ手前で降りて、残りを歩くとか……」

鈴木「中央区(東京都)の町歩きボランティアガイドの皆さんを前に講演したことがあるんです。江戸の歴史を実際の場所に照らし合わせてお話しすると、皆、『こういう歴史があったんですね』と驚かれていました。今まで意識していなかった江戸が、歴史を知ることで、現代と地続きになったんです」

堀口「江戸時代の人も、きっと『江戸名所図会』を読んで、これまでの歴史と繋がったんですよね?」

鈴木「その通りだと思います。江戸の歴史を再発見したんです」

名所図会でパワースポット巡り?

堀口「明治時代になっても、『江戸名所図会』が再販されたと聞きました」

鈴木「ええ。明治26年に再販されていますね。維新後、東京にはどんどん西洋文明が入って来たし、地方からも多くの人間がやって来ました。時代は変わっても東京のベースである“江戸”を知る必要がまだまだあったんだと思います」

堀口「昔はよかったなあ、なんて昭和を振り返るのと同じですか?」

鈴木「維新のころはとにかくがむしゃらで、明治10年代は西南戦争や民権運動で混乱し、明治も20年代に入ると憲法発布、江戸開府300年祭、第1回総選挙、帝国ホテル開業、三多摩東京府移管、東京府庁舎完成などようやく近代化の道も開けてきた。今と昔を落ち着いて比較したり、振り返るにはこの『江戸名所図会』はもってこいだったのでしょう」

堀口「これだけの情報量と正確な絵ですから、重宝がられますよね。今はそれがネットで簡単に検索できるんですから、いい時代に生まれました(笑)。だってパソコン上で雪旦の絵を拡大したりとかもできちゃうんですから!」

鈴木「研究者だけでなく、『江戸名所図会』は面白い読み物だと思いますよ。例えばこれを使ってパワースポット巡りとか……」

堀口「いま流行のパワースポットですか?」

鈴木「私のゼミの学生に、パワースポット巡りを課題に出しているんです。言い換えれば神社仏閣巡り(笑)。世間でいうパワースポットは玉石混淆で、由緒正しきものもあれば、後世に付け加えられたという例もある。例えば東京近郊のパワースポットならば、『江戸名所図会』で調べてみれば、その真偽がわかる。斎藤三代がきっちり調べていますから。もちろん効き目まではわかりませんけどね(笑)」

堀口「パワースポットかどうかはともかく(笑)、神社仏閣を巡るといろんな発見があります」

鈴木「東京という街は、移り変わりが激しい街です。猛スピードでいろいろなものが変わっていく中で、"変わらないもの"がある。神社仏閣がその代表格です。それが面白い。現代の技術の粋を集めて建造しようとしている東京スカイツリーと戦争で焼失しながらも昭和48年に再び伝統的な姿をあらわした浅草五重塔が両方そびえ立っているのが、江戸(古い)―東京(新しい)の面白さだと私は思いますね」

堀口「伝承されているものをもっと見直すべきなのかもしれません。私にとってはそれが、『江戸名所図会』をまるでマンガを読むように楽しむことなんですけど。この中には、江戸の人たちが大切に考えていたことがたくさん詰まっていますから!」




  • 注1 名所江戸百景
    安藤(歌川)広重の最晩年の風景版画のシリーズ。版元は魚栄で、安政3(1856)年から同5年にかけて出版された。総数は、二代広重の「赤坂桐畑雨中夕けい」の一枚を加えて、百十九枚である。

ジャパンナレッジ「江戸名所図会」。「版本表示」と「挿画説明」はボタンで切り替えることができる。

挿画説明画面。赤枠をクリックすれば、その箇所の細かな説明が読める。江戸名所だけでなく、江戸の風土や生活を深く知るのにとても役立つ機能だ。


Facebookページで好評連載中の、堀口さんがナビゲーター役をつとめる「お江戸、いいね!~I Like! EDO」。堀口さんが「江戸名所図会」を解説するコーナーはもちろん、実際に街に繰り出し今に息づく江戸を映像で伝える「お江戸、ナビ」や、「好きな時代劇は?」など双方向のコミュニケーションが楽しめるディスカッションコーナーなど、楽しい企画が目白押し! ぜひ、このページに参加して、ネットで江戸散歩してみませんか!

堀口茉純さんがナビゲーターをつとめる
「お江戸、いいね!~I Like! EDO」
Facebookページで絶賛公開中!

『江戸名所図会』を手がかりに、現代人が江戸を楽しむ秘訣とは?鈴木章生目白大学教授×お江戸ル堀口茉純のトークバトル最終回、お題は「江戸流・散歩のすすめ」

歩くと見えてくるものがある

堀口「『江戸名所図会』を見ていて、その細かな観察力に驚いてしまうんですが、編著者の斎藤幸成(月岑)も、絵師の長谷川雪旦も、これだけの場所を歩いて回ったのかと思うと、敬服しちゃいますね」

鈴木「江戸の人たちは"歩く"ことで生活が成り立っていましたから、私たちが思うよりは苦ではなかったかもしれません」

堀口「今、江戸時代の古地図を手にした町歩きもブームになりつつありますよね」

鈴木「東京には、私たちが驚くほど、江戸時代の面影がまだ残っているんです。訪れる場所を『江戸名所図会』から探して、その部分の絵をコピーする。それを携えて、現地で見比べるなんて楽しいですよ。安藤(歌川)広重の『名所江戸百景』(注1)も一緒に持って行くと、なお面白さが増しますね。脳の中で江戸の情景と今を重ね合わせる――極上の脳内体験ができます」

堀口「電車や車の窓からは気付かなかったものが、歩くと見えてきますよね。私も、江戸に興味を持ち始めてから、積極的に歩くようにしているんです。例えば、30分早く家を出て、目的の駅の1つ手前で降りて、残りを歩くとか……」

鈴木「中央区(東京都)の町歩きボランティアガイドの皆さんを前に講演したことがあるんです。江戸の歴史を実際の場所に照らし合わせてお話しすると、皆、『こういう歴史があったんですね』と驚かれていました。今まで意識していなかった江戸が、歴史を知ることで、現代と地続きになったんです」

堀口「江戸時代の人も、きっと『江戸名所図会』を読んで、これまでの歴史と繋がったんですよね?」

鈴木「その通りだと思います。江戸の歴史を再発見したんです」

名所図会でパワースポット巡り?

堀口「明治時代になっても、『江戸名所図会』が再販されたと聞きました」

鈴木「ええ。明治26年に再販されていますね。維新後、東京にはどんどん西洋文明が入って来たし、地方からも多くの人間がやって来ました。時代は変わっても東京のベースである“江戸”を知る必要がまだまだあったんだと思います」

堀口「昔はよかったなあ、なんて昭和を振り返るのと同じですか?」

鈴木「維新のころはとにかくがむしゃらで、明治10年代は西南戦争や民権運動で混乱し、明治も20年代に入ると憲法発布、江戸開府300年祭、第1回総選挙、帝国ホテル開業、三多摩東京府移管、東京府庁舎完成などようやく近代化の道も開けてきた。今と昔を落ち着いて比較したり、振り返るにはこの『江戸名所図会』はもってこいだったのでしょう」

堀口「これだけの情報量と正確な絵ですから、重宝がられますよね。今はそれがネットで簡単に検索できるんですから、いい時代に生まれました(笑)。だってパソコン上で雪旦の絵を拡大したりとかもできちゃうんですから!」

鈴木「研究者だけでなく、『江戸名所図会』は面白い読み物だと思いますよ。例えばこれを使ってパワースポット巡りとか……」

堀口「いま流行のパワースポットですか?」

鈴木「私のゼミの学生に、パワースポット巡りを課題に出しているんです。言い換えれば神社仏閣巡り(笑)。世間でいうパワースポットは玉石混淆で、由緒正しきものもあれば、後世に付け加えられたという例もある。例えば東京近郊のパワースポットならば、『江戸名所図会』で調べてみれば、その真偽がわかる。斎藤三代がきっちり調べていますから。もちろん効き目まではわかりませんけどね(笑)」

堀口「パワースポットかどうかはともかく(笑)、神社仏閣を巡るといろんな発見があります」

鈴木「東京という街は、移り変わりが激しい街です。猛スピードでいろいろなものが変わっていく中で、"変わらないもの"がある。神社仏閣がその代表格です。それが面白い。現代の技術の粋を集めて建造しようとしている東京スカイツリーと戦争で焼失しながらも昭和48年に再び伝統的な姿をあらわした浅草五重塔が両方そびえ立っているのが、江戸(古い)―東京(新しい)の面白さだと私は思いますね」

堀口「伝承されているものをもっと見直すべきなのかもしれません。私にとってはそれが、『江戸名所図会』をまるでマンガを読むように楽しむことなんですけど。この中には、江戸の人たちが大切に考えていたことがたくさん詰まっていますから!」




  • 注1 名所江戸百景
    安藤(歌川)広重の最晩年の風景版画のシリーズ。版元は魚栄で、安政3(1856)年から同5年にかけて出版された。総数は、二代広重の「赤坂桐畑雨中夕けい」の一枚を加えて、百十九枚である。

鈴木章生(すずき・しょうせい) 鈴木章生(すずき・しょうせい)

1962年愛知県生まれ。89年、立正大学大学院文学研究科卒業。江戸東京博物館勤務を経て、現在、目白大学社会学部地域社会学科・同大学院国際交流研究科教授。専門は日本史。江戸の都市生活や文化を研究。『江戸名所図会』 CD-ROM版(ゆまに書房)の監修を務めた。

堀口茉純(ほりぐち・ますみ) 堀口茉純(ほりぐち・ますみ)

東京都足立区生まれ。明治大学文学部卒業。女優として舞台やテレビドラマに多数出演する一方で、江戸文化歴史検定一級を最年少で取得。以降、お江戸ル(お江戸のアイドル)として、文筆や講演でも活躍。2011年秋には徳川15代将軍をテーマに単行本を出版予定。