ニッポン書物遺産

文庫クセジュ

episode.1
そもそも『クセジュ』とはなんだろうか。クセジュ成立に隠された秘話やその魅力など、『文庫クセジュ』をよく知る関係者にお話を伺う、第1回目。

第二次大戦下に刊行を開始

──フランス国内で『クセジュ』の刊行が始まったのは、1941年だそうですが、なぜこの戦乱の時期だったのでしょう?

芝山「フランスの原出版社に問い合わせたところ、『戦争で外国への販路がなくなるので、別の読者を見つけなければならなかった。そこで生まれたアイデアが、より一般大衆に向けたコレクションを刊行することだった』そうです」

和久田「戦争によって、“知”が危機に瀕していた、ということもあるかもしれません。クセジュの創設者ポール・アングールヴァンは、創設理由の1つとして、“百科全書の精神”を真っ先にあげていますが、フランスでディドロやダランベールによって『百科全書』(注1)の刊行が始まったのは、1751年。アングールヴァンは、この〈偉業は神学上の束縛から人間精神を解放〉し、〈1789年のフランス大革命のもっとも積極的な素因の1つともなった〉と評価しています」

中川「アングールヴァンの言う第2の理由が、〈普遍と綜合〉。3番目に、読者の〈知性をたかめ〉、〈文化財をゆたかにする〉ため、〈価格の安いものを、できるだけ豊富に提供する〉ことをあげています」

和久田「〈普遍と綜合〉とは、言い換えるなら“データベース化”です。今回、ジャパンナレッジのコンテンツになったことで、データベースとしての使い勝手がより増しました。しかもたくさんの読者に安価で知を提供できる。ジャパンナレッジでの公開は、クセジュ創刊の精神にのっとったものと言えるかもしれませんね」

芝山「原出版社からはこんな回答がありました。『当コレクションが掲げたスローガンのひとつは、「現代知識の焦点」だった。あらゆる人に開かれた知識の集大成を提供する、百科にわたって世界に視線を注ぐというこの志は、当コレクションのDNAでありつづけている』。まさに私たちが大事にしている志です」

43か国語に翻訳されているクセジュ

──では、クセジュの特徴をわかりやすく言うと?

和久田「コンセプトとしては、先に言った創刊の3つの理由があげられますが、わかりやすい原書の特徴は次の3つです。
①全タイトルが128ページであること。
②著者はその分野の専門家で、一般大衆に提供していること。
③頻繁にアップデートされていること。
実際、こだわりも強いらしく、128ページにおさめるために、本文中の文字の大きさをページによって変えたりしてるんです」

中川「アップデートも特徴ですね。クセジュが全冊揃うと百科事典になる、というコンセプトなので、タイトルは事典の大見出しのようなものなんです。普通、事典は何年かおきに改訂しますよね? 同じようにクセジュも、新しい研究成果が上がると、過去出した本と同じタイトルのものを出すんです」

和久田「わかりやすい例で言うと、『ナポレオン』です。クセジュには、アンリ・カルヴェの『改訳ナポレオン』とロジェ・デュフレスの『ナポレオンの生涯』と、ナポレオン本が2冊ありますが、どちらも実は、原書では『ナポレオン』というタイトル。アップデートされたということなんですね。どちらも名著ですから、私たちとしては2冊残したい。そこで熟慮を重ね、片方に『~の生涯』とつけたんです」

芝山「1941年にフランスで創刊されて以来、クセジュは2500人の著者によって3800タイトルが刊行されています。フランス国内では累計1億6000万部売れているそうですから、とてつもない数字ですね。日本だけでなく、これまでに43か国語に翻訳さていますから、まさに世界的な知のデータベースといえます」

中川「今現在、クセジュの原書は、毎年50冊の新刊が発行され、プラス約100冊がアップデートされています。この中から何を日本に紹介するか。このあたりが担当編集者の仕事の醍醐味ですね」


  • 注1 『百科全書』
    原題は≪Encyclopedie, ou Dictionnaire raisonne des sciences, des arts et des metiers≫。1751~80年に発表されたフランスの百科事典で、ディドロとダランベールの監修。本編17巻、補遺5巻、図版11巻、索引2巻。フランス啓蒙思想の集大成であり、近代合理主義の立場による知識の普及に大きな役割を果たした。編集協力者数は二百数十人。その中にはヴォルテール、ルソー、モンテスキューらがいた。

『文庫クセジュ』は1951年、白水社より刊行。フランスの『コレクション・クセジュ』から日本人でも親しみやすいタイトルを担当編集がピックアップし、現在も月1点は発行しつづけている。ジャンルは「哲学・心理学・宗教」、「歴史・地理・民族(俗)学」、「社会科学」、「自然科学」、「芸術・趣味」、「語学・文学」と幅広い。

くわしくはこちら
http://www.hakusuisha.co.jp/quesaisje/

『クセジュ』は同時代の知を取り入れるため、同じタイトルであっても、つねに内容をアップデートしている。写真は『Histoire de Paris』の新旧あわせて3冊。

そもそも『クセジュ』とはなんだろうか。クセジュ成立に隠された秘話やその魅力など、『文庫クセジュ』をよく知る関係者にお話を伺う、第1回目。

第二次大戦下に刊行を開始

──フランス国内で『クセジュ』の刊行が始まったのは、1941年だそうですが、なぜこの戦乱の時期だったのでしょう?

芝山「フランスの原出版社に問い合わせたところ、『戦争で外国への販路がなくなるので、別の読者を見つけなければならなかった。そこで生まれたアイデアが、より一般大衆に向けたコレクションを刊行することだった』そうです」

和久田「戦争によって、“知”が危機に瀕していた、ということもあるかもしれません。クセジュの創設者ポール・アングールヴァンは、創設理由の1つとして、“百科全書の精神”を真っ先にあげていますが、フランスでディドロやダランベールによって『百科全書』(注1)の刊行が始まったのは、1751年。アングールヴァンは、この〈偉業は神学上の束縛から人間精神を解放〉し、〈1789年のフランス大革命のもっとも積極的な素因の1つともなった〉と評価しています」

中川「アングールヴァンの言う第2の理由が、〈普遍と綜合〉。3番目に、読者の〈知性をたかめ〉、〈文化財をゆたかにする〉ため、〈価格の安いものを、できるだけ豊富に提供する〉ことをあげています」

和久田「〈普遍と綜合〉とは、言い換えるなら“データベース化”です。今回、ジャパンナレッジのコンテンツになったことで、データベースとしての使い勝手がより増しました。しかもたくさんの読者に安価で知を提供できる。ジャパンナレッジでの公開は、クセジュ創刊の精神にのっとったものと言えるかもしれませんね」

芝山「原出版社からはこんな回答がありました。『当コレクションが掲げたスローガンのひとつは、「現代知識の焦点」だった。あらゆる人に開かれた知識の集大成を提供する、百科にわたって世界に視線を注ぐというこの志は、当コレクションのDNAでありつづけている』。まさに私たちが大事にしている志です」

43か国語に翻訳されているクセジュ

──では、クセジュの特徴をわかりやすく言うと?

和久田「コンセプトとしては、先に言った創刊の3つの理由があげられますが、わかりやすい原書の特徴は次の3つです。
①全タイトルが128ページであること。
②著者はその分野の専門家で、一般大衆に提供していること。
③頻繁にアップデートされていること。
実際、こだわりも強いらしく、128ページにおさめるために、本文中の文字の大きさをページによって変えたりしてるんです」

中川「アップデートも特徴ですね。クセジュが全冊揃うと百科事典になる、というコンセプトなので、タイトルは事典の大見出しのようなものなんです。普通、事典は何年かおきに改訂しますよね? 同じようにクセジュも、新しい研究成果が上がると、過去出した本と同じタイトルのものを出すんです」

和久田「わかりやすい例で言うと、『ナポレオン』です。クセジュには、アンリ・カルヴェの『改訳ナポレオン』とロジェ・デュフレスの『ナポレオンの生涯』と、ナポレオン本が2冊ありますが、どちらも実は、原書では『ナポレオン』というタイトル。アップデートされたということなんですね。どちらも名著ですから、私たちとしては2冊残したい。そこで熟慮を重ね、片方に『~の生涯』とつけたんです」

芝山「1941年にフランスで創刊されて以来、クセジュは2500人の著者によって3800タイトルが刊行されています。フランス国内では累計1億6000万部売れているそうですから、とてつもない数字ですね。日本だけでなく、これまでに43か国語に翻訳さていますから、まさに世界的な知のデータベースといえます」

中川「今現在、クセジュの原書は、毎年50冊の新刊が発行され、プラス約100冊がアップデートされています。この中から何を日本に紹介するか。このあたりが担当編集者の仕事の醍醐味ですね」


  • 注1 『百科全書』
    原題は≪Encyclopedie, ou Dictionnaire raisonne des sciences, des arts et des metiers≫。1751~80年に発表されたフランスの百科事典で、ディドロとダランベールの監修。本編17巻、補遺5巻、図版11巻、索引2巻。フランス啓蒙思想の集大成であり、近代合理主義の立場による知識の普及に大きな役割を果たした。編集協力者数は二百数十人。その中にはヴォルテール、ルソー、モンテスキューらがいた。

芝山 博(しばやま・ひろし) 芝山 博(しばやま・ひろし)

1948年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。白水社常務取締役編集担当。72年白水社入社。営業部を経て編集部へ。編集部では主にイタリア関係の書籍を担当。文庫クセジュでは800点目の『ダンテ』を編集。

和久田頼男(わくた・としお) 和久田頼男(わくた・としお)

1968年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。白水社に入社後、演劇雑誌と文庫クセジュの編集長を歴任。哲学・思想の古典をアーカイブしてゆくシリーズ「白水iクラシックス」も手がけている。クセジュ時代、現在の黄色の表紙にデザインを一新した。

中川すみ(なかがわ・すみ) 中川すみ(なかがわ・すみ)

1960年、東京都生まれ。学習院大学フランス文学科卒業。絵本の翻訳の仕事などを経て、2003年から文庫クセジュ編集部へ。2006年、900点目の刊行を見届ける。この春、「クセジュ10年」(苦節10年)に1年届かない9年で卒業。

浦田滋子(うらた・しげこ) 浦田滋子(うらた・しげこ)

京都府出身。大阪外国語大学フランス語学科卒業。前職はNHKで国際放送局フランス語放送や、NHKラジオフランス語講座の収録、編集に携わる。2012年春から、中川さんに代わり、文庫クセジュの新編集担当となる。