日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第11回
もう一つの「水無月(みなづき)」

 京都の人に「水無月」というと、どうやら月の異名よりも、その名のついた和菓子を真っ先に思い浮かべるらしい。関東の人間にはあまりなじみがないのだが、白い外郎(ういろう)を台にしてその上に甘く煮た小豆をのせ、三角形に切った菓子である。外郎は氷に見立てたもので、小豆は悪魔払いの意味合いがあるのだそうだ。
 なぜ6月に氷なのかというと、古く6月1日に氷室に蓄えておいた氷を取り出して、天皇に献上したものを特に「氷室の御調(みつぎ)」といったところから、その氷に見立てたものと考えられる。
 6月になると京都の町の「おまんやさん(お饅頭屋さん)」ではこの「水無月」が一斉に店頭に並ぶそうだ。本来は、6月30日の「夏越(なご)しの祓(はら)え」の時に食べるものだったので、店によってはその日1日だけしか販売しないところもあるという。「夏越しの祓え」とは夏から秋への季節の変わり目に、罪や汚れを除き去るための行事である。今でも各地の神社などでチガヤや藁(わら)などで作った輪をくぐる風習が残っている。
 京都の人がなによりも季節を感じる菓子だと言い、しかもわずかな期間しか食べられないものだと聞くと、辛党の筆者もぜひ食べてみたくなる。

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