日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第113回
「こんちわ」「ちわー」「ちわっ」

 最近メールやマンガなどで、「こんちわ」「ちわー」「ちわっ」などという表現を見かけるようになったが、皆さんはこのような書き方に抵抗はないであろうか。さらには「こんにちわ」という表記すら見られる。もちろんこれらはすべて誤用からきているのである。
 言うまでもないことだが、正しくは「こんにちは」と書く。「わ」ではなく「は」と書くのは、元来は「今日はよいお天気で・・・」などの後ろの部分が略されたものだからである。「こんにちは」の「は」は助詞(副助詞)の「は」で、「こんばんは」の「は」も同様である。
 現代語の仮名遣いの拠り所となっている「現代仮名遣い」(昭和61年内閣告示)によれば、助詞の「は」は、「表記の慣習を尊重して」、「は」と書くとしている。そしてその中に「今日は日曜日です」「あるいは」「いずれは」「恐らくは」などとともに、「こんにちは」「こんばんは」もその例として挙げられている。助詞の「は」は「は」と書くというのはちょっとわかりにくいが、要するに助詞の「は」はワと発音されるが、表記する場合は「は」とするということである。
 確かに、「こんにちは」はそう書かなければ間違いである。だが、「こんちわ」「ちわー」「ちわっ」などになるともはや語源意識が薄れて、「は」という助詞であることも忘れられているので、新しい一語の俗語と考えてもいいのかもしれない。実際に仮名遣いは正しくすべきだと言って「は」を使って書いてみると、「こんちは」はまだわかるが、「ちはー」「ちはっ」は読みにくいし、何のことだかわからない。
 このような俗語の誕生を苦々しく感じる向きもあるかもしれないが、「こんちわ」「ちわー」「ちわっ」を否定することが難しくなっていることは確かである。

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