「素人はだし」ということばをご存じだろうか。何をばかなことを、そんなことばなどあるわけがないではないか、とお思いになった方も大勢いらっしゃることだろう。もちろんそれが正解なのだが、完璧な答えとは言えない。禅問答のようで恐縮なのだが、実はインターネットでは「素人はだし」が驚くほど多く検索に引っかかるのである。たとえば「ギターの腕前は素人はだし」などのように。
 なぜこのようなことになってしまったのだろうか。
 言うまでもないことだが、正しくは「玄人(くろうと)はだし」である。「玄人はだし」とは玄人もはだしで逃げ出すほどであるということから、素人なのに専門家が驚くほどのすぐれた技芸や学問をもっていることをいう。「専門家はだし」などという言い方もある。
 いずれにしても逃げ出すのは玄人、プロなどの専門家であり、アマチュア、素人などの未熟な人間ではない。ところが、素人がはだしになるということがなぜか素人がすぐれていると解釈されて、「素人はだし」という語が生まれてしまったようなのである。あるいは似たようなことばに「素人離れ」があるので、それとの混同があったのかもしれない。
 「素人はだし」がどんなに増殖していても、明らかに誤用なので、新語に敏感な国語辞典といえども見出し語にすることは永久にないであろう。だが、辞典編集部に、インターネットなどで数多く見かけるのになぜ辞書に載せないのか、という投書が来る可能性は絶対にないとは言えない。筆者が編集を担当している辞典の「玄人はだし」の項目に、「素人はだしは誤用」という補注を載せるべきかどうか悩んでいる。

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