“張る”のは「論陣」「論戦」どっち?
2012年07月30日
国内最大級と謳(うた)っているオンライン英語辞書を何気なく見ていたときのことである。和英辞典の中に「論戦を張る」という見出しを見つけて一瞬わが目を疑った。よく見ると「論陣を張る」と同義と見なし、 to take a firm stand あるいはto argue about などという英語を添えているではないか。インターネットの世界ではついにここまできてしまったのかと、複雑な心境であった。
もちろん正しい言い方は「論陣を張る」である。「専門家を相手に堂々と論陣を張る」などと使う。「論戦を張る」は「論戦」「論陣」の混同で生まれた誤用である。
その間違った言い方が、インターネットなどでかなり広まっているという実感は以前からあった。だがそれはブログなどのことで、まさか英語辞書のサイトとはいえ、ことばを調べるサイトまで広まっているとは思ってもみなかった。
その混同が一般にかなり浸透していることは確かである。たとえば文化庁が発表した平成19(2007)年度の「国語に関する世論調査」では、本来の言い方である「論陣を張る」を使う人が25.3パーセント、間違った言い方「論戦を張る」を使う人が35.0パーセントと、逆転した結果が出てしまっている。
なぜ「論陣」は「張る」のかというと、軍勢が駐屯する場所をいう「陣」に「陣を張る」と言い方があることから、「論陣」も「張る」と結びついていると考えられる。近代以降の用例を見ても「張る」の他に「論陣を/固める・布(し)く」などやはり「陣」に関する語と結びついているものが多い。
一方「論戦」は「論戦を/開く・繰り広げる・交わす」など「戦」に関する語と結びつきやすい。
同じ「論○」という熟語ではあるが、その使い方は「陣」「戦」の違いと同じであると覚えておけば、間違えることなど無くなるのではないだろうか。
もちろん正しい言い方は「論陣を張る」である。「専門家を相手に堂々と論陣を張る」などと使う。「論戦を張る」は「論戦」「論陣」の混同で生まれた誤用である。
その間違った言い方が、インターネットなどでかなり広まっているという実感は以前からあった。だがそれはブログなどのことで、まさか英語辞書のサイトとはいえ、ことばを調べるサイトまで広まっているとは思ってもみなかった。
その混同が一般にかなり浸透していることは確かである。たとえば文化庁が発表した平成19(2007)年度の「国語に関する世論調査」では、本来の言い方である「論陣を張る」を使う人が25.3パーセント、間違った言い方「論戦を張る」を使う人が35.0パーセントと、逆転した結果が出てしまっている。
なぜ「論陣」は「張る」のかというと、軍勢が駐屯する場所をいう「陣」に「陣を張る」と言い方があることから、「論陣」も「張る」と結びついていると考えられる。近代以降の用例を見ても「張る」の他に「論陣を/固める・布(し)く」などやはり「陣」に関する語と結びついているものが多い。
一方「論戦」は「論戦を/開く・繰り広げる・交わす」など「戦」に関する語と結びつきやすい。
同じ「論○」という熟語ではあるが、その使い方は「陣」「戦」の違いと同じであると覚えておけば、間違えることなど無くなるのではないだろうか。
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「満面の笑顔」「汚名挽回」「的を得る」……従来誤用とされてきたが、必ずしもそうとは言い切れないものもある。『日本国語大辞典』の元編集長で、辞書一筋37年のことばの達人がことばの結びつきの基本と意外な落とし穴を紹介。
