日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第126回
「存」の読みは辞書編集者泣かせ

 「脱原発依存」などというときの「依存」だが、皆さんは何と読んでいるだろうか。「いそん」?「いぞん」?NHKのアナウンサーはほぼ間違いなく「いそん」と言っていると思われる。というのはNHKでは「いそん」を第1の読みとしているからだ。だが、一般には「いぞん」の方が浸透しているのではないだろうか。
 実は、「いそん」「いぞん」、どちらを使っても間違いではないのである。ナーンだ、それならわざわざこのコラムで取り上げる必要はないではないか、とお思いになった方も大勢いらっしゃるであろう。だが、「存」という漢字には「そん」と「ぞん」のふたつの音があるため、その熟語は辞典では扱いがちょっとやっかいな語なのである。
 厳密に言えば「そん」は漢音、「ぞん」は呉音なのだが、字音による意味の違いはないと言ってよい。そのため「そん」と読むか「ぞん」と読むかは熟語によっても違うのである。いちおうの目安としてそれぞれの字音で読まれる熟語を下記に示した。
「そん」と読むもの:存続、存廃、存亡、既存
「ぞん」と読むもの:存念、存命、生存、実存
「そん」「ぞん」どちらでもあるもの:共存、現存、残存
 いかがであろうか。この語は自分は違うと思った方も多いのではないだろうか。たとえば、「そん」と読むとされる「既存」などは、「きぞん」派も多いと思う。「そん」「ぞん」どちらでもあるとした熟語も、「きょうぞん」「げんぞん」「ざんぞん」と「ぞん」の方が優勢かもしれない。
 辞書の見出しの読みを決める場合、伝統的な読み方を優先すべきか、読者が引きやすい優勢な読みを第1にすべきかいつも悩むのだが、「存」のつく熟語は語によって読みがかなり揺れているので辞典編集者泣かせの語なのである。

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