日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第138回
「浮き足立つ」

 「週刊ポスト」の2012年11月9日号を読んでいて、ちょっと面白い記事を見つけた。タイトルは『NHK有働アナ「浮き足立つ」を誤用して神妙にお詫びした瞬間』というのである。
 その放送自体は見られなかったのだが、記事を読むと、NHKの有働由美子アナウンサーが司会を務める情報番組『あさイチ』の10月23日の放送で、「浮き足立った話」を視聴者からファックスで募集したのだという。それはそれで別に問題はないのだが、「クライマックスシリーズで中日3連勝、中日ファンの私はまさに浮き足立っていました」とのファックスが届くなど、“ウキウキして落ち着かない”エピソードが次々と紹介されたのだそうだ。ところが、視聴者からの1枚のファックスで有働アナウンサーが「『浮き足立つ、の正しい意味は恐れや不安を感じて逃げ腰になる、落ち着きがなくなるという意味なんですよ』……私のマイ辞書にも、そのように書いております」と訂正とお詫びをしたのだという。
 ひところ女子アナの日本語力のひどさが取りざたされたが、別に有働アナウンサーの日本語力を問題にしようというのではない。
 では何かというと、この「浮き足立つ」の誤用が広まっているらしいということに注目したいのである。有働アナウンサーだけではなく番組スタッフも、“ウキウキした”内容のエピソードをファックスで送った視聴者も、間違った意味で使っていたという点に辞書編集者として興味がある。これほどまでに誤用が広まっている語だとは思わず、今までほとんどノーマークだったからである。
 そんな目で実際にウキウキ気分の「浮き足立つ」を探してみると、ちゃんと(?)あるではないか。国立国語研究所の「現代日本語書き言葉均衡コーパス」から見つけたのだが、「たぶん、直前になってキャンセルが出たのだろう。JRの切符を入手した筆者は、『北斗星に乗れる!』と浮き足立っていたのだが、そんなに甘くはなかった。」(柳原秀基著 『システム管理者の眠れない夜』)という誤用例があった。
 ウキウキ気分を表す類似の語に「浮き立つ」があるのでそれとの混同かもしれないが、“要経過観察”の語がまたひとつ増えてしまった。

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