日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第164回
「2年ぶりに出場」──前回の出場はいつ?

 読者から「ぶり」という語の使い方について質問を受けた。「何年ぶり」などと言うときの「ぶり」の数え方がよくわからないというのである。
 念のために「ぶり」の意味を確認しておく。辞書的な説明をすると、「時間を表す語について、前回と今回との間にそれだけの時間が経過したという意味を表す語」ということになるであろう。
 よくスポーツ大会などで「○年ぶりの出場」などという言い方をするが、たとえば2年ぶりと言った場合、前回はいつになるであろうか。「ぶり」は満で数えるのが基本である。従って、今年(2013年)に「2年ぶりの出場」と言った場合は、〔2013年-2年〕でその前の出場は2011年だったことになる。
 だが、たとえば2012年に出場して2013年にも出場した場合は、1年たってはいるが、「1年ぶりの出場」とは言わない。これは「ぶり」にはその前の状態が再び起こるという意味ではあるが、年1回しかない催しの場合はその1年の間には出場の機会はないわけだからそう言わないのである。このような場合、ふつうは連続出場といった言い方をする。
 ここまでは、読者への基本的な「ぶり」の使い方に関する回答である。
 だが、この「ぶり」の使い方が最近どうも揺れているようなのである。蛇足ではあるがそのことに触れておく。
 ひとつは、「ぶり」にはそのことが起きることへの期待感が言外に含まれているので、「5年ぶりの大事故」といったような、よくないことには使わないとされてきた。ところが一部の辞典では、「好ましくないことにも使う。」(『明鏡国語辞典 第2版』)という注記が加わったのである。
 また、「ぶり」はある程度の時間を経て元の状態が再現されるという意味であるため、「着工以来10年ぶりに完成した」というような元の状態の再現ではない言い方も誤用だとされてきた。だが、NHKの『ことばのハンドブック 第2版』では、期待されている事柄であればこのような言い方も認めているのである。
 今後はこの揺れの扱いにも悩まなければならないようだ。

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