日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第19回
お盆

 普通は「盆」「お盆」と言っているが、正しくは「盂蘭盆(うらぼん)」と言う。
 「盂蘭盆」は梵語「ウランバナ(逆さ吊りの意)」の音訳だという説がある。地獄では逆さ吊りにされているからだというのだが、何となく釈然としない。インド学の故岩本裕氏は、霊魂を意味するイラン語「ウルヴァン」 の音訳と見て、行事自体もイランから中国に伝えられたものとしている。
 「お盆」の時期は、本来は旧暦7月13~15日に行われるのだが、いまは新暦7月か8月に行うところが多い。いささか古いものだが、昭和54(1979)年に大分大学の日高貢一郎教授(日本語学)が行った調査によれば、新暦7月に行う地域は、北海道根室市、群馬県前橋市、東京都、静岡県浜松市佐賀県鹿島市、熊本市など限られた地域であった(『ことばの地域差』「文研月報」日本放送協会総合放送文化研究所 昭和54年3月)。ということは、残りの地域はほとんどが新暦8月にお盆の行事を行っているわけである。
 「月遅れのお盆」や「旧盆」という言い方があるが、調査結果によれば実態はほとんどが「月遅れ」「旧」に行っているわけであるから、わざわざ「月遅れ」「旧」と付けることは意味がないと言える。そのため、テレビ・ラジオでは、「月遅れのお盆」「旧盆」といった表現は避けているようだ。

キーワード: