日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第195回
「汚名○○」という四字熟語は?

 先ずは問題から。
 悪い評判、不名誉な評判の意味の「汚名」という語を使って四字熟語を作りなさい。
 こんな問題が出たとしたら皆さんは何と答えるであろうか。
 「汚名=返上(へんじょう)」はどうであろうか? はたまた「汚名=挽回(ばんかい)」は?
 実は、従来「汚名返上」が正しいとされてきた。ところが、文化庁が発表した平成16(2004)年度の「国語に関する世論調査」では、「前回失敗したので今度は―しようと誓った」という設問に対して、本来の言い方である「汚名返上」を使う人は38.3パーセント、従来なかった言い方「汚名挽回」を使う人が44.1パーセントという、数値が逆転した結果となっている。
 「汚名挽回」が誤りだという根拠は、それが「汚名返上」と「名誉挽回」の混交表現だからだと考えられている。
 文化庁は、従来なかった「汚名挽回」も間違った言い方だとは断定していないが、最近この調査結果を受けてか、「挽回」には「もとの良い状態を取り戻すために巻き返しをはかる」という意味もあるので、「汚名挽回」は「退勢(地に落ちた評判)を挽回する」と同じように考えられるのではないかとする辞書が出てきた。(『明鏡国語辞典 第2版』)
 確かに「挽回」には「もとの状態に戻す」「巻き返しをはかる」という意味があるので、「汚名挽回」には失った評判をもとの状態に戻す、巻き返しをはかるという意味があるようにも思えなくはない。しかし「挽回」は本来は「失ったものを取り戻す」という意味なので、「汚名挽回」では「失った汚名を取り戻す」という意味になるとも考えられる。「名誉挽回」が正しいのは、名誉は失ったとしても、「名誉」というもとの状態を取り戻す可能性があるからそう言えるのではないだろうか。
 以上の理由から、「汚名挽回」が広まっているという文化庁の調査結果は無視できないものの、辞書として「汚名挽回」を認める勇気は、筆者にはまだない。一般にも、「汚名挽回」はおかしいと感じる向きはまだまだ多いのではないかと考えるのである。

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