日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第209回
「合いの手」と「相槌(あいづち)」

 今回もまた問題から。
 以下の文章の━━の部分に入る最も適した語を答えなさい。
 (1)合いの手を━━
 (2)相槌(あいづち)を━━
 答えは、(1)は「入れる」、(2)は「打つ」で、正解は「合いの手を入れる」「相槌を打つ」となる。
 ところが、最近この「合いの手」と「相槌」とを混同して、「合いの手を打つ」「相槌を入れる」と言う人がいるらしい。辞書の中でも『デジタル大辞泉』がそれぞれの項目の補注で、その混同が誤りであることを指摘している。また、筆者のパソコンのワープロソフトでも、「相槌を入れる」と入力すると、《「相槌を打つ/合いの手を入れる」の誤用》、「合いの手を打つ」と入力すると《「合いの手を入れる/相槌を打つ」の誤用》と親切に教えてくれる。
 「合いの手」とは、元来は邦楽で歌と歌との間に楽器だけで演奏する部分のことで、やがて歌や音曲の間にはさむ手拍子や掛け声のことをいい、さらには「合いの手を入れる」で相手の話などに合わせ、ちょっとしたことばやしぐさを差しはさむことをいうようになった。
 また「相槌」は、刀鍛冶(かじ)などで、師が打つ間に弟子も槌(つち)を入れることで、互いに槌を打ち合わすことをいう。そこから転じて、「相槌を打つ」で他人の話に調子を合わせてうなずいたり、短いことばを差しはさんだりするという意味になったものである。
 「アイノテ」「アイヅチ」と同じ「アイ」で始まる語なので似ていなくもないが、まったく別の語である。「合いの手を打つ」の場合、「合いの手」は手拍子を打つこともいうので、それと混同しているということもあるのかもしれない。
 ただ、インターネットで検索しても、まだ混同した用法がさほど多く見られない点は希望が持てる。今のうちに『大辞泉』のようにできるだけ丁寧に注意を喚起して、誤用を食い止める手立てを施すことが大事だと思われる。

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