日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第27回
神無月(かんなづき)

 陰暦10月の異称である。その語源は、10月には日本国中の神々が出雲(いずも)大社に集まって、出雲以外の国々は「神無し月」になる(逆に出雲では「神在(かみあり)月」という)という説があまりにも有名だが、この説が必ずしも定説となっているわけではない。
 けっこう面白い説があるので、それらを簡略にご紹介したい。

(1) 諸社に祭のない月であるから〔『徒然草』など〕
(2) 伊弉冉尊(いざなみのみこと)が崩じた月であるから「神無月」という〔『世諺問答(せげんもんどう)』など〕
(3) カミナヅキ(雷無月)の意〔『語意考』など〕
(4) 10の数より上はないので、カミナヅキ(上無月)の意〔『和爾雅(わじが)』など〕
(5) 新穀で酒を醸すことから、カミナシヅキ(醸成月)の義〔『嚶々筆語(おうおうひつご)』など〕
(6) ナにはナ(無)の意はない。神ノ月の意〔『万葉集類林』など〕。

 じつはこれらはあまたある語源説の一部なのである。出雲以外は「神無し月」(出雲は「神在り月」)という説は確かに面白いが、他の説も負けてはいない。こじつけめいたものもあるが、それはそれでけっこう楽しめるのである。

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