日本語、どうでしょう?~知れば楽しくなることばのお話~

辞書編集者を悩ます日本語とはなにか?──『日本国語大辞典』など37年国語辞典ひとすじの辞書編集者がおくる、とっておきのことばのお話。

第28回
声を「あららげる」か「あらげる」か?

 先日、NHKのドキュメンタリー番組を見ていたら、語り手の女優さんが「声をあらげた」と言ったので、一瞬アレっ?と思った。だが、すぐにテレビ・ラジオでは「あららげる」「あらげる」の両形を認めていたことを思い出し、いちおう納得した。
 だが、この「あららげる」「あらげる」は放送はそうであっても(新聞も放送と同じ)、国語辞典では辞典によって扱いがまちまちなのである。それを整理すると以下のようになる。
(1)「あららげる」のみ見出し語に挙げているもの
(2)「あららげる」「あらげる」の両形を見出し語に挙げ、「あらげる」を誤用とするもの
(3)「あららげる」「あらげる」の両形を見出し語に挙げ、「あらげる」を誤用とまでは言っていないが、近年の用法であるとしているもの
 いずれにしても「あらげる」は、辞典の世界ではいまだに市民権を得られていないと言えそうである。
 しかし「あららげる」が本来の形だとしても、言語学的には2つある「ら」の1つが脱落して、「あらげる」となることは説明が可能である。しかも「あららげる」「あらげる」ともに、江戸時代からそれぞれの使用例が見られる。とすると、国語辞典の立場としても、放送や新聞がそうだからということではなく、しっかりとした根拠があるのだから、そろそろ「あらげる」の存在を認めてもよいのではないかと考えるのである。

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